ブローディア夏
番外-しっと
石間--
「木野」
「あ、石間……」
俺が今声をかけたというのに、木野は顔を背けてしまった。
その隣りにいたクラスメイトが変な顔を木野に向けて、二人とも教室の中に消えていく。
なんだよ。
最近木野の様子がおかしい。話しかければ誰にでもそれなりの反応をみせるのが木野だろ。
俺には『それ以上』でなきゃ、変じゃねえのか。
「あんらまー石間ってば」
「あ? なんだよ」
いつもつるんでる仲間が口笛を吹いた。
なんだよ、とは言ったが、きっと手に持ってるサンドイッチの箱のせいなのはわかっていた。
色違いの、サンドイッチの箱が3つ。
「9組と10組だろ、調理実習だったトコ。豊漁だねい」
「らしいな。てか明日俺らだって嫌でも食えるんだけどね」
「まあそんなこと言ってん、嬉しいくせに」
「ほほほ。成長期ですからね」
小声で話しながらチラッと見て、そういうお前こそ貰ってんじゃんか、と肘を打つ。
ああ、青春だよな。
……木野さえこっち見て笑ってくれたらさあ……。
昼飯まであと一時間過ごすために、さっき頂いたカツサンドをカッ食らった。最後の一箱には好物のポテトサラダが挟まっていたから、昼にとっておくことにして。
「木野」
「あ……」
黒板が綺麗だったから、黒板前の席を陣取っている木野に近付く口実が見つからない。でも、そんなんいいやと話しかけた。
そんなん、いいやと……
「あっ?」
「!」
目が合った途端、バサリと音をたてて木野は何かを机に隠した。
タイミングよく、ではない。俺に見せたらまずいものがあったんだ。
嫌な予感がした。
木野は何かを口に含んでいるようで、お茶のペットが机に乗ったままだ。
「なに……隠した?」
隠したいなら隠したまんまでいいじゃんか。とも、なんで俺に見せない? とも思った。
木野は俺と目を逸らしてもぞもぞと喋ったが、俺にはいやにはっきり聞こえてしまったのだった。
「……石間が貰ったのと同じやつだよ」