ブローディア夏
番外-キミが悪い(共有)
「木野、届け出してこよう」
石間が黄色い紙を突き出して来た。
「はんこ……」
「や、名前かくだけ」
届け。……あ、早退届け?
「石間」
「なんだ」
「俺帰る気ないよ。次体育出たいもん」
「見学できる状態なのか」
木野はクリクリと髪を弄っていた。
困ったと先生に目配せしているのがわかって、俺は無理矢理起き上がってセーターを脱ぐ。
「行こう。みんな石間を待ってんじゃない」
「駄目。帰んなきゃ駄目。熱あんだぞ?」
「ああ。教室に帰る」
「木野」
石間が俺の腕を掴んだ。冷たくて気持ちいい。
空気が動いたせいで石間の香水が香ったが、それはいつまでたっても慣れないものだった。
「俺は女じゃないよ」
石間が一歩さがる。
俺は女じゃない。カーテンの中でこそこそ話してるなんて止めないといけない。
そうだ。
どうどうとしてればいいんだ。
「わかった」
「きっ、」
石間も声が裏返ったり、するの。
セーターの毛玉がついたワイシャツを脱いで、その中に着ていた少し大きめのTシャツも脱いだ。汗で少しやわやわしてるけどしょうがないや。
「これ返す」
「木野」
「俺帰るから、これ着て体育出ろよ」
「うそ」
俺どうかしてる。
もういい。痺れる指でボタンを留め直して、さっき脱いだセーターも被った。膝の上に置いたはずの石間のTシャツはとうに奪い取られてた。
石間がワンポイントの赤いマークをまじまじと見て、石間と俺の匂いのするそれに顔を埋めたりして。
この赤いマークのブランドが石間のお気に入りってことは、ここの生徒なら皆知ってることで。
「これ昨日うちに」
「ああ。でもまさか……さあ」
「どういうつもりなんだよ」
石間が俺の頭の上で笑っている。
俺どうかしてる。
これを体育で着て、どうするつもりだったんだよ。
石間の笑い声が近付いて、そのまま髪の毛に込められた。
「恥ずかしいんだから笑うなよ……」
「まさか着てくれるとは思わねえじゃん」
「着たくなかった」
「着て欲しかった」
「最悪」
「え、怒るなって」
…やっぱ俺どうかしてる。
でもそれは、キミが悪い。
おわり