ブローディア夏
番外-鎖骨
「木野、その浴衣ちょっとでかいわ」
「そうなのか?」
石間は俺の足元を指差して苦笑した。
羽織った瞬間からずっと足元ばかりを見ているけど、俺としては衿の合わせ方とか肩の縫い目はこんなに二の腕まできていいのかとか、そっちも気にして欲しいんだけど。
つまるところでサイズがでかいの一言なのか。
「妹はもっと長いの着てたけど」
「女子と違うんだよ、男はピッタリサイズを着るもんらしいぜ」
残念だなと言った石間が、俺の肩から石間のお古の浴衣を剥ごうとする。
俺は名残惜しくて、その手を掴んだ。
「もう少し着てたい」
「それは駄目だ」
「そんなに似合わないか」
「いや、そーいうわけでもない」
前にもこんなやり取りがあった気がする……
憮然と石間を見上げていたら、衿を掴んでいた石間の手が俺のはだかの鎖骨の上にペタリと張り付いた。ビックリして後ずさる。
「な。な! 嫌だろこうされんの」
今度は袖を掴んだ石間は反対の手で窓の桟に積もった埃を掬う。顔は真っ赤だった。 なんだ。
「嫌じゃないよ、石間もそんなとこあるんだ」
「はっ!?」
急に俺に向き直って、肩をがしりと掴まれた。そしてそうっと手のひらが離れて、またゆっくりと肩に乗せられる。
「俺も鎖骨の窪みを触るのすきなんだ」
「へえ。……えぇっ?」
更に顔を近付けて覗きこまれる。
「俺は臍の縁を触るのも好き。」
「……はぁ?」
「変だよな、変だけど石間も同じでよかった」
「………」
言いながら恥ずかしくなった俺は頭を掻いた。
昔から皮膚の薄いすべすべしたところを触るのが気持ち良くて好きだったなんて、初めて他人に話したから。昔母親に言ったら馬鹿にされたんだよな。
「きの、あの、木野」
「なんだ」
「その……」
「触ってもいいけど」
石間はガバーッと音がするほど勢いよく俺に抱き付いた。はだけた浴衣がバサリと床に落ちて、石間に蹴られて皺くちゃになっている。
抱き付いたら触れないんじゃないかな。
心配になってそう尋ねると、「馬鹿ヤロウ」と囁かれた。
石間の声は好きだ。
でもやっぱり、馬鹿にされちゃったよ。
石間だって同じじゃん。同じじゃないのかよ、ばか。
おわり