ブローディア夏
番外-もったいない
「似合わない」
「うるさいな」
「ような気がする……だけ」
「もういいや」
久々に石間の家に遊びに来たっていうのに、石間はなんだか意地悪だ。いや、ただ俺が面白くないだけ。"怖い石間"になっているというわけではないんだから。
「でもやっぱし、似合ってないな」
「脱ぐ」
「木野。それは駄目」
「なんでだよ」
「なんでも」
俺たちの高校の制服は、ありがちな紺のブレザーだ。中学の時もありがちなブレザーだった俺は、学ランにあこがれていた。そう話したら、石間が中学時代のブレザーを着せてくれたのだ、が。
「だいたいサイズがぴったりすぎるのが良くない」
「え? ぴったりならいいじゃん。学ランてぴったりじゃ駄目なもんなのか」
「いや……個人的に……きいてねえし……もっとこう」
「はあ?」
ブツブツ言いはじめた石間は、俺の長くない前髪を真ん中から二つに分けた。
なんだかむず痒くて額を触ったら、怒り出すし。
「なんだよ、わかったよ、わかったから脱がせろよ」
「駄目駄目駄目駄目!」
「意味わかんねえもん」
「わかんないままでいて欲しいってえか」
「俺恥かしいから」
石間は何故か真っ赤になって、俺の両腕を掴んだ。どうしよう。もしかしてすっごく怒ってる?
「石間、ごめん。離して」
「木野」
「ん?」
「脱がしていい」
「ひでえ……そんなに似合わないのか」
これが本心か。なんだ、引っ張りやがって、つまんねえの。
「違うんだ木野、似合わないってことにさして。じゃないと俺」
「や、もういいから」
「一生着せ……は? わかってねえな」
「わかったってば」
「お前ほんとに男かよ」
「まごうことなきね」
「前も聞いた」
「なんかむかつくんだけど」
計画どおりにいかねえな、と石間は頭をがしがし掻いてから、乱れた髪を丁寧にくりくりし始めた。そうしながら俺の全身に視線を巡らせて溜め息を吐いた。
俺は恥かしいから脱いだ。学ランを着るの、楽しみにし過ぎてて恥かしい。だってこんなにも全身で似合わないと言われちゃあね。
「木野」
「なんだ」
「お前、かわいいね」
「男だよ」
やっぱりわかってない、石間はそう言って真っ赤な顔のままでボタンを外すのを手伝ってくれた。
「あ! 写メんの忘れた!!」
「いいよ」
「よくねえ」
「馬鹿にしてる」
「誰にも見せないから撮らして」
「え。写メって皆で見る以外には、一人で何に使う物なんだ……?」
「………」
石間は、少しの間喋ってくれなかった。
おわり