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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア夏

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 教室の後ろに下げて集めた机を前に出して並べ直す作業は、掃除当番の仕事の中で一番苦手だ。
 統一してくれりゃいいのに、イスの乗せ方なんか各自中学時代の慣例に従ってるからさ。あー、もう、イスがこっち向きだと持ちにくいんだって。
 クラスの半分以上がテキトーな奴等なせいか、イスをあげない奴もいるし、机の中に教科書が詰まってたり。床に落ちてる油取り紙の丸まったやつをふんじゃったり。
 三好が最後の机を持った瞬間、そんな机の中から大量の紙が溢れてきた。

「うわっ、やべっ」

 石間の机だ。
 掃除中のメンバーが集まって直ちに詰め直す。あの連中に見つかったら面倒だと、微妙なところでテキトーじゃないアノ人達をお持い浮かべながら。
 プリントだと思っていた紙は全部かわいらしいメモ帳だった。確かめなくともそれは女子とやり取りした手紙で、他の掃除メンバー同様、石間他腰パン連中に対しては普通はひがむのもうらやむも、そんな感情は麻痺しちゃってるもんなんだ。
 でも俺は普通じゃないみたいで。引き下がる積もりが、確実にのめり込んでいて。
 破ってしまいそうになったハート柄のメモ帳を、そっと机に差し入れた。

 合コンだなんだとイベントごとがあるらしい日の放課後は、下駄箱がいつも以上に賑やかになる。違うクラスや学年の腰パンとミニスカートまでがタムロってて、自分の靴を出すのに何故か謝らなきゃいけなかったりするんだな。
 その集団の中に石間がいるってことが、当たり前だったはずなのに。今は見たくないんだ。

「先生、図書室の鍵返しにきました」

 図書室で時間つぶす予定だったのに、委員会が終わった途端に締め切られてしまった。俺には放課後の教室でダベるような友人はいないし、三好は掃除の後にすぐ帰ってしまったし。

「いつも悪いわねえ木野くん」
「いえ、通り道だし……」

 ちなみに図書室は一階で、職員室は二階。当たり前に玄関は一階だ。
 自分でも意味分かんないこと言った自覚はあるけど、とりあえずは少しでも会話をして帰る時間を遅らせたいなって。
 あ。でも、32分のバス、そろそろ出る頃か。
 こんなに苦労して時間延ばしてんのに、職員室を出たところのホールに石間が立っていた。なぜか俺の鞄と補助バッグまで持って。

「石間……?」
「お、やっときた」

 自意識過剰かとも思ったけどホントに俺を待ってたんだ……。俺の鞄を自分のと間違えて持ってるなんてワケないよな。

「木野、早く行こう」

 石間は急かすように鞄を突き出してきた。行くって、どこにだ?

「石間は合コンだろ」
「は? いやいや、俺木野んち行くし」
「なんだっけそれ」
「なんだっけもクソもねえよ」

 なかなか鞄を取らない俺に焦れて、石間は両肩にそれぞれ持ち手を引っ掛けてスタスタ歩き出した。

「なあっ、石間!」
「………。」

 階段を降りたら、もう玄関は随分静かになってしまっていた。
 石間はおいてかれたのかな。

「また、俺のせいで予定潰して……」
「木野」
「悪かったよ」
「あんね。俺合コンとか今興味ねえの」

 流石。俺はあるよ。行かないけど、興味はあるなあ。
 そんな思いが顔に出てしまっていたのかもしれない。石間は下駄箱からはみ出た靴を掴んで地面に叩き付けて、鞄を投げて寄越した。

「俺はやりたいようにやってんの。木野のせいとかそう言うんじゃねえし」
「そうなのか」
「そうなのかって。……第一俺たち」

 付き合ってんだよな。

「さっき教室で誤解させたかも知んないから、ごめん。俺はじめから合コン参加しないつもりで、その穴埋める奴探してたんだ」
「なんだ、石間、はじめから」
「うん。悪かったよ」
「そっか。……凄い怖かったけど……」
「けど?」

 180センチに0.5センチだけ足りない石間が、高身長のくせに俺を下から窺い見た。
 すると、幾つもボタンを外したワイシャツから石間の浮き出た鎖骨が見えた。

「……いや、なんでもない…」

 ケータイは持って無いけど、手紙のやり取りなら俺にでも出来るかなあ、なんて。
 ハート柄のメモ帳は遠慮しとくけど。

作品名:ブローディア夏 作家名:しらとりごう