ブローディア夏
授業最後の礼さえも無視して、俺は机に突っ伏している。先生、無視したんじゃないんです。気付かなかったんです。
「進二郎く〜ん、キミ結構やるね」
だから、寝てて気付かなかったんだってば。
クラスのモテる集団から一人外れた黒いやつが話しかけて来た。寝てても先生に気付かれないくらいに地味な俺は、黒いやつと正面向いて話してると眩しいんだ。黒いけど。
「でさ、頼みがあんの」
「宿題ならやってない」
そんなあ〜とのけ反った黒いやつは、そのままどこかに消えた。
土曜日の講習はクラス単位でないため、違うクラスの知らない奴が隣りに座ったりする。黒いやつはしきりに当たるか当たらないかを気にしていて、まあ助けようにも俺この単元嫌いなんだよね。
「そいえば進二郎クン」
「はい?」
黒いやつが机に寝そべりながらまた声を掛けてきた。こいつ、日本人離れした二重瞼だ。
「石間がさあー、あ、わかる? 石間晃」
「同じクラスじゃん」
そっけなく突っ込んで、気持ちははやる。石間の話題が、俺に振られるなんて初めてだ。
「石間がさぁ、進二郎クンのこと名前で呼びたいってさあ〜」
「…はあ?」
ほら、石間あの授業のとき休みだったじゃん。俺らが進ちゃん呼ばわりするの、なんでよって怖い顔すんのー。
「勝手に呼べば……いいのにな」
「あはっ、そう思う〜」
石間、もしかして、クラスの奴等に嫉妬してんのか? 流石に黒いやつにそんなことは言えないが、でもまただれも知らない石間の秘密を知ってしまった。
俺ごときがこんな事考えていいのかな。
でも俺は、嬉しいって思ってしまったよ。