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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア夏

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 180cmに0.5cmだけ足りない身長の持ち主・石間晃には友人が多い。
 沢山の人の輪の中にいながらも常にケータイを弄り続けるような忙しい奴で、空いている左手で髪の毛をクリクリと捻ってもいる。
 俺はあの避難訓練の一件以来、特に石間と関わる事なく過ごしている。それは今まで通りのことだ。
 でもなぜか気になるのは、俺が後ろのドアに一番近い席にいて、休み時間の度に石間目当ての女子を取り次がなきゃいけないせいだろうと思う。

「木野」
「なに」

 石間から俺に話しかけて来る理由は一つだけある。

「あの子ら、別に友達じゃねーし、今度から無視していいから」
「さっきの?」

 いつも石間と馬鹿騒ぎしている女子じゃなかったっけ。

「そもそも1年らしいし」
「俺、女子の見分けがつかないんだよ」

 ああ。一見キツそうに見える石間が、フッと笑って俺の机に手を突いた。

「確かにな。」

 言いながら突いた反動で振り返り、また輪の中に帰って行く。
 明日の席替えで、もう一切の関わりは無くなるだろうと思う。

 HRでの席替えの結果、俺は幸運にも教卓のド真ん前を陣取る事に成功した。この席は黒板に近すぎる為に首が疲れるのが難点だが、教師からは全くの死角となる。なにをしていても咎められない良席だ。
 石間は……また窓側の最後尾。
 別に、石間の席がどうだってことはない。ちょっと気になるのは、180cmから0.5cmだけ足りないという長身のせいだ。俺が無理矢理振り返りでもしなければ、それももう拝むことはないだろう。

「木野」
「なに」

 宿題は、隣りの席になったらしいクラス委員に見せて貰えばいいだろうな。

「木野のアドレス、聞いていい?」

 俺が石間と関わることは、たぶんもうない。

「俺、ケータイ持ってないから」

 石間は俺の正面にある教卓に身を預けただらしない姿勢のままで、少しだけ目を見開いた。今時珍しいって言うんだろ。
 首を持ち上げているのが面倒で肩を落とすついでに下を向く。石間は演技なのかなんなのか、棒読みで言った。

「なんかそれカッケーな、木野らしい」

 それ、馬鹿にしてんのかな。
 顔を上げたら既に石間は目の前から消えていて、人の輪のなかに溶けていた。

 ふうん。こんな小さな教卓の中に、良く入ったもんだよ。
 ミニテストの裏に書かれたケータイ番号とアドレスをひっくり返したら、満点の文字。クラス唯一だっていう満点は、クラス委員かと思っていたけれど。
 明日また話したりするような事があるんだろうか。
 石間は、友人が多い。俺に割り当てられる時間は、そんなに多くはないだろう。

作品名:ブローディア夏 作家名:しらとりごう