ブローディア夏
『ブローディア』
同じクラスの石間が、180cmにあと0.5cmだけ足りない体を縮めて教卓の中に隠れていた。
隠れんぼではない。
"昼休みに突然起きた地震"を想定した避難訓練だ。
「やばいな、これは」
校舎の中でも外でも、サイレンの音。
なにも学祭の準備期間中に避難訓練を設定しなくたっていいじゃん。教室の机、今朝体育館に運び出したばかりなんだよ。
「これ、やる」
「なにこれ」
「新聞」
見たらわかる。
塗装中の木材の脇に積まれていた新聞で頭を守るのか。皮肉にも、今朝の一面は本州で起きた大地震が特集されていた。
そうだ、校庭に出る際は教科書か何かで覆いながら、って言われたな。
無防備にも黒板の前に突っ立った俺と、その前にある教卓に納まった石間と。
「ねえ石間」
「なに、木野」
どうして、こんなに静かなんだろ。
「頭を守れとは言われたけど、そういえば机に隠れろとは言われなかった気がする」
「俺ら、もしかして逃げ遅れたのか」
「そうかも」
「まじかよ」
「取り敢えずそこから出れるのか?」
「いや、うん多分」
「じゃあ行こうぜ」
「何処に」
「安全なとこだろ」
「そうだな。」
ここは危険だ。
そう呟いた石間が教卓をひっくり返して、教室を飛び出した。
「薄情者!」
律義に新聞を被って後を追う。
同じクラスの石間晃とは、この時初めて会話をした。
高校2年の夏の事だった。