サイコシリアル [1]
すると、戯贈は僕に押しつけていたナイフを離した。本日初めて攻撃態勢ではなくなったのだ。そして、語り始めた。ゆっくりと、自らを嘲笑うかのように。
「私は━━行動力が欠落しているの。ある一種の病気ね。考えることは出来る、判断することも出来る。それでも一番重要な『行動力』がないのよ。行動力と言っても、ただの愚鈍な輩とは違うわよ。言葉の通り、満足に行動する力がないの。私の筋肉細胞は壊死と蘇生を繰り返しているわ。今でも、このナイフが鉄ハンマーのように重くて仕方がない」
自然と僕の焦点は、戯贈の瞳から、戯贈が持つナイフへと移り変わった。
僕が捉えたナイフは、小刻みに震えていた。良く目を凝らし、意識的に見ないと気付かないくらい微妙な震え。その震えはコンマ、数ミリの世界だろう。
そして、戯贈は続けた。
「信じるも信じないも全ては、あなた次第。信じれば、あなたの妹が救われる確率は上がるわ。でも信じなければ確率はゼロパーセントのまま」
あまりにも予想外すぎる超展開。
正確に言うのであれば、予想すらしていないから予想外でもない。ただの、驚愕の展開。一驚ではなく驚愕だ。
「もし、信じると言うのであれば今夜九時に丑抱公園のベンチに来てもらえると嬉しいわ。詳しくはそこで離すから。職員室の前で立ち話なんてロマンの欠片もないでしょう?」
戯贈自体がロマンのない言葉を捲し立て、昇降口の方向へと帰って行った。
取り残された僕は今現在、過去最高ランクに位置する程の決断に迫られていた。
ロマンチストになるか否か、全力で回答を模索していた。
実に涙を誘発させる話だ。
結局はロマンチストになると思うけど。
作品名:サイコシリアル [1] 作家名:たし