サイコシリアル [1]
その時、首元にひんやりとした感触がした。僕は、もちろん条件反射に則り、首元を見た。
そこには━━
見えなかった。首元を見ようとした時に、痛みが走ったからだ。手を包丁で切ったような、あの痛みが首元に走ったのだ。
「人は言葉でも殺せるの。これ私の格言。どう?」
その声はとても静かで、人の恐怖を逆撫でするようだ。
僕は知っている。
こいつを。
学年でも有名すぎるから。
━━戯贈 妄言(ざれおくり みこと)
朧気高校三年三組文学コース。主に欠席がちの女の子。アニメで例えられるような可愛すぎる美少女、と言う訳ではない。可愛いと言えば可愛いが、宝石の様な瞳も、とろけるような唇も持っていない。ただ、外見だけで言えば何処か魅かれる所があるのは間違いない。前に遠目に見ただけだったが俺の印象に残っているのはこんな感じだ。声も前に一回だけ聞いたことがあるだけ。
しかし、ある人はこう言った。
「戯贈さんは、どこか儚いよね」
多分、これはない。
「戯贈さんは、何て言うのかな? 少し怖いんだけど、実は優しい人だと思う」
多分、これもない。
要するに、謎なのだ。この戯贈の情報はことごとく━━ない。ゼロに等しい。
僕の趣味には『情報収集』という項目も存在するが、最近になっても戯贈の情報は入ってこない。
担任や、他の教師に聞いても「は、ははは・・・・・・そんなこと聞いてどうする」なんて戯言をぬかすだけ。
あ、忘れていた。一つだけ僕が持っている情報があった。・・・・・・訂正。三年生の全員が知っている情報が一つだけある。
成績は常に一番なのだ。
試験の度に貼りだされる、三十位以内だけの順位表。そこには毎回『戯贈 妄言』の名前があるのだ。一番上に。皆を見下すかのように名前があるのだ。
前回の試験なんて五百満点中五百点という異常な点数を叩きだしていた。
天才たちの中の異能の天才。
作品名:サイコシリアル [1] 作家名:たし