サイコシリアル [1]
「今は曖昧にしか分からなくても自ずと分かってくるわよ。中立という意味が。自己中という真意が」
「そうだな、一気に理解する必要もないし。今、重要なのは斬島のことだしな」
そう、今重要なのは『中立』の思想ではない。
『悪逆無道』、殺しが癖になった殺し屋たちの組織だ。
「話が早くて助かるわ、涙雫君。頭は悪いけど馬鹿ではないのね。だとしたらまだ救いようがあるわ。救う理由が見つからないし、見つけたくもないのだけれど」
「三言くらい余計だ!」
「斬島は、『人心隔離』の元一員よ」
流された。
華麗なまでに流された。
というか、相手にされなかった。
「『人心隔離』、殺しが癖になった組織。彼らは、私たち人間だれしもが所有する『癖』が殺しなのよ」
「でも、斬島の場合は殺しが癖というよりは、殺しが好きという感じじゃなかった? 美少女を殺したくて堪らない・・・・・・みたいな」
癖というのは、無意識的に行うものと、自意識的に行うものがある。
でも、斬島の場合は無意識的でも自意識的でもなく、ただの趣味みたいな感じだった。
癖ではなく趣味。
殺すことが趣味。
「だから『元』一員なのよ。『人心隔離』の組織の人間は皆、他の二つの組織よりも人間的よ。ただ、殺しが止まらないだけ。『人心隔離』はすなわち隔離された人間が集まる組織よ。人の中では生きていけない、人たちが集まる組織」
「その中で、殺しが趣味だった斬島は異端だったってこと?」
「そうよ。唯一殺しが趣味だった斬島は異端中の異端。ただのサイコパスだったのだから。最も人間的で非人間性を帯びた人間には相容れなかった存在」
「それじゃ、今回の依頼は猿渡警部の依頼でもあると同時に、『人心隔離』の願いでもあるのか」
「願いという表現は合っているのか分からないけど、近いものはあるわね。斬島は組織を追放される時、数人の仲間を殺してから姿を消したらしいから」
「仲間を・・・・・・?」
「そ、仲間を」
「でも、殺し屋の組織だったら、人ひとりくらいすぐ殺せるんじゃないか? それを生業としているんだから」
「だからさっきも言ったでしょう。あなたから理解力を取ったら何が残るの? ただの骨と皮よ。使い物にならないわ」
「お前が欠けているのは行動力だけじゃない・・・・・・優しさもだ!」
自分で言うのもなんだが、この二日で築き上げて来た日常が崩壊しているんだ。僕からすれば、よく対応している方だと思う。
あくまでも、僕からしたらだが。
実際、普通の人がこの状況下に立たされたら、たまったものじゃないだろう。まず、話すら聞く気にならないと思う。
なんか、僕が僕を普通じゃないって主張しているようで嫌だけど。
作品名:サイコシリアル [1] 作家名:たし