サイコシリアル [1]
「何で私なんですか?」
志那は多分、理解力が追いついてないのだろう。言っていることは分かるが理解が出来ないといった感じだ。というよりも、話が現実離れしすぎていて、ついて来れていないのだろう。
だから、そんな質問しか口に出せないのだ。疑いや戸惑いなどではなく、質問しか出てこないのだ。
「美少女だからよ」
戯贈は至極簡潔に理由を述べた。
「あなたが美少女だから」
しかも二度。
「嫉妬するくらいの美少女だからよ」
いや、三度だった。
意味があるのかは全く持って不明だが、三度言った。
「斬島は美少女中学生しか狙わない性質、この場合は性癖と言えばいのかしら。まぁ、どっちでもいいわ。とにかく斬島は美少女を殺すことに快感を得ている」
戯贈は、表情を変えずに淡々と説明を続けた。
「そこで、今回ターゲットになったのが志那ちゃんなのよ。朧気中学随一の可愛さを誇るあなたがね。斬島も一応は元殺し屋なのだから、各中学校にハッキングして生徒の写真でも見たんでしょうね」
そして、あなたが目にはいったのね、と戯贈。
「分かりたくない話、というよりもまだ実感が湧きません」
「それは実感がないんじゃなくて、自覚がないのよ、志那ちゃん」
「そうかもしれませんね、でも、もしそれが本当の話だとしても何故戯贈りさんが助けてくれるんですか?」
「あら、知らなかったの? 私も殺し屋だからよ。斬島を殺すことが結果からして、志那ちゃんを守ったことになるだけよ」
だから、と戯贈続けた。
「言わば、直接的に守ってくれるのは涙雫君。あなたのお兄さんよ」
そうだ。僕が守らなければならない。世界でたった一人の可愛い妹を。
「戯贈さんが殺し屋?」
志那が戯贈に返した。
「まぁ、信じるも信じないも志那ちゃんの勝手よ。ただ守ってくれるのは涙雫君ということだけ覚えておけばいいわ」
「分かりました」
理解の早い妹だ。
こんな訳の分からない現状を『分かりました』と言えてしまうのだから。
いや、訳の分からない現状だからこそ『分かりました』というしかないのだろう。
分かりました、と言いつつ脳内では情報整理に勤しんでいるのだろう。もしくは、ただ純粋にこれからのことを考えているのか。だとしたら、本当に中学生離れしている。
ともかく志那はそれっきり黙りこくってしまった。
作品名:サイコシリアル [1] 作家名:たし