サイコシリアル [1]
【連続殺人魔・斬島猟木の場合】
「案外部屋を綺麗に保っているのね、涙雫君」
結局、僕は戯贈住み込み生活の件を受け入れた。
というよりも、受け入れざるを得なかった。幸い、両親は海外に長期出張に行っているので何も言われることはないとふんだのだ。
今現在、家には妹しかいないということだ。勿論、妹には今回の真相を詳しく教えるわけにはいかない。
彼女が出来たから連れてきた、と適当なこと言って戯贈を家に入れたのだ。
『お兄ちゃん彼女が出来たんだね。おめでとう』と妹は快く祝福してくれたのは言うまでもない。
「涙雫君の妹は少し変わっているのね。少し刺激的だったわ」
「せっかく綺麗に終わらせようとしていたのに!」
何を隠そう妹は、普通ではない。何故、沢山の人たちに愛されているのか分からないくらい普通ではない。それでも周りに人が集まるから、他人に好かれる天才なのだ。
普通ではない第一の理由が『ませている』という点。
『おめでとう』と祝福された後は、『避妊具は持ち合わせているの?』だとか『お兄ちゃん女の子というのはね(以下略)』だの『妊娠なんかさせたら私が変わりにお兄ちゃんを殺してあげる』だとか捲し立てていた。
そして第二の理由がとにかく怖い。
前者に上げた言葉一つ一つに凶器と狂気がミックスされているのだ。
『避妊具は持ち合わせているの?』という言葉には出刃庖丁が、『お兄ちゃん女の子というのはね(以下略)』という言葉には鋸が、『妊娠なんかさせたら私がお兄ちゃんを殺してあげる』という言葉には右手に鉈、左手に鎌が添えられていた。
「あなたの妹はサイコパスの匂いがするわね。とても気持ちがいいわ」
「ふざけるな! 可愛い妹なんだから」
「もしくはヤンデレというやつかしら。私とキャラが被ってしまうじゃない」
「お前はヤミデレだ!」
「病みと闇をかけたのね。うまいこと言うじゃない」
く、妹の命が危険にさらされているというのに何をやっているんだ、僕は。
「気を張っていてもダメよ。気を張るのと引き締めるのじゃ大きな違いが生まれるわ」
戯贈が僕の心情を察してか、珍しく優しい口調で言ってきた。
こいつが優しさなんていう真心を持ち合わせているのは意外だったが、今は是非とも頼りたい気分だ。
実際考えてみると『殺し屋』なんて大それた言っているが、現に今から行うのは『護衛』そのものだ。
実は、案外優しいのかもしれない。
「獲物というのは、じっくりと好機を伺い、狩るものよ」
作品名:サイコシリアル [1] 作家名:たし