サイコシリアル [1]
訂正。
戯贈の半分は、狂気で構成されているらしい。
その時、家の中に呼び鈴が響き渡った。
条件反射だろう。俺は咄嗟に妹の顔が思い浮かび、部屋を出て階段をかけおりた。
最悪の場合、この呼び鈴を鳴らした主は━━斬島だ。
階段をかけ降りると、丁度妹が玄関に差し掛かった所だった。
僕は、一瞬だけ安堵の息をつき、妹の腕を掴み、無理やり僕の後ろへと追いやった。
「どうしたの、お兄ちゃん。そんなに慌てて」
「お前はリビングに戻れ!」
僕の必死の形相、切羽詰まった口調に押されてか、妹はすんなりとリビングへ消えていった。
僕は、妹を見送ると玄関の扉に向かい合った。
とてもじゃないが平常心じゃいられない。
心臓が必要以上に体に血液を送っている。
手には大量の汗。それでも、しっかりと地面に立っている自分に拍手喝采を送りたい。
戯贈は、まだ来ないだろう。
何せ、彼女は『行動力』というものが限りなくない。
筋肉細胞が壊死と蘇生を繰り返す原因不明の病。
歩くのも遅ければ、階段なんていう下半身に莫大な負荷を与える行路は、戯贈の行動力を更にゼロに近づけているはずだ。
だから、僕が全てを統べなくてはならない。
僕は、恐る恐る着々と玄関の魚眼レンズ目掛けて歩み出した。
恐怖で先ほど着替えたばかりのTシャツがびっくりするほど濡れているのが分かる。
個人の時間感覚からすれば十数秒は経過しているであろう今は、現実的に換算すればたったの数秒だろう。
それ程までに思考が加速し、時間感覚を狂わせていた。
魚眼レンズを覗き込むまで約数ミリ。
時間にしてコンマ数秒。
永遠的とも例えることが出来る一瞬が終わる時。
僕の目が捉えた者。
作品名:サイコシリアル [1] 作家名:たし