サイコシリアル [1]
「ねぇ、どんな責め方が好きなの? 教えてくれてもいいじゃない」
僕、硬直。
声帯までもが硬直。
桃源郷はここなのだろか。僕が目指した理想郷はここなのだろうか。
あぁ、そうか。
今分かった。
僕はマゾだ。
僕が声を発しようとした時、絶妙なタイミングで戯贈はこれまた絶妙な距離間に体の位置を戻して言った。
「こういう責め方が好きなのね。マゾだわ。気色が悪い」
気色が悪いと言われても、今の僕は喜色満面だろう。
いや喜色涙面と言い換えればいいのだろうか。
多分、いや確実に僕は涙している。
一介の童貞野郎には刺激が強すぎる展開だ。
血が沸き肉が躍る。
「何をニヤニヤしているの? 今、あなたの妹の命が危ないのよ。まぁ、私一人の力で百花繚乱に値する力があるということが証明出来たのは良いことなのだけれど」
「その状況を作り出しているのは、お前だ戯贈!」
「先から気にはなっていたのだけれど、初対面の女の子に対して呼び捨てとは失礼な話ね。乙女心が泣き喚いて、とてもじゃないけど陵辱された気分だわ」
「後半の表現力が乙女じゃないだろ!」
「峯拐?」
「やめろぉぉぉおおおおお!」
耳元で名前を呼び捨てにするのは反則技だ! 禁じ手だ!
僕の相棒が目覚めてしまう禁じ手なんだ!
「涙雫君って可愛い所があるのね。なんだか童貞みたい」
はい、図星です。
別に恥じることはない。高校三年生で童貞なのは星の数ほどいる、と願っている。
「かくいう私も処女なのだけれど」
「何故このタイミングでカミングアウトした!?」
「男の子は皆、処女が好きなのでしょう? だとしたら処女な私は、童貞日本男子の夢を具現化したようなものよ。 だって処女だもの」
「処女処女って連呼するな!童貞日本男子の夢は『うぶで純な処女』だ!」
「私は、初めてを失うのは涙雫君みたいな人がいいわ」
「アプローチされた!?」
今年の夏は未来永劫色褪せることのない常夏になることが約束された瞬間だった。
多分。
作品名:サイコシリアル [1] 作家名:たし