むべやまかぜを 2
「ふーん。だったらいいけど。でも、大丈夫なの? エロなし同人って。アネキが作った蒼のファルコネットだって、多少のエロはあったはずだよ。四次元みたいな激エロじゃなかったけど」
「いや、まあ、ね、今回はエロはなしということでしてね。そのことはもう社内でも決めたことなんですね」
「ふーん」
やたらと語尾に『ね』をつける耳障りな話し方に丸山花世は辟易している。それにしても。敢えて同人の持ち味を封じることのどこに意味があるのか。
「まあいいけどさ、そんなんで、売れるの?」
「ええ、まあ、ね、それを売るのが僕の役目ですから」
さらりとデブは言ったが……それを聞いている丸山花世は渋い顔のままである。
――こいつ、ちょっと馬鹿なんじゃないのか?
あるいは本当に優れた営業マンで、ゴミを万金の値で売り飛ばす実力があるのか。
「ふーん。まあ、いいや。それでいったいどうすんの?」
丸山花世はヒゲダヌキに訊ねた。ここまで相手が馬鹿だとかえって興味がわいてくるから不思議なもの。
「私は何をすればいいのよ?」
「そうですね……それではちょっとスタッフを呼んできましょうかね……少々、お時間くださいね」
三重野はそのようにして言うとブースから出て行った。早速、製作の打ち合わせに入るらしいが……。
「あの、丸山さん」
岡島も一抹の不安を感じているのか。表情が冴えない。
「気乗りしないようだったら、このお話、断ってしまってもいいんですよ……そこまでの義理はウチにはないですから」
「いや。いいよ。うん。話聞くだけ聞いてみるわ」
花世は先ほど斉藤女史が見せた、なんともいえない暗く複雑な視線を思い出している。あれは……どういうことなのか。
――まあ、軽蔑、だよね。デブ営業に対する……。
いったいこの会社はどうなっているのか。何かがかみ合っていないように見受けられるが、その根っこの部分を見てみたい。それは言ってみれば花世の好奇心。
やがて。先ほど出て行ったデブにつれられて、うだつの上がらない連中がやってくる。会議用のブースに入ってきたのは全部で三人。
?背の高いハゲ。
?筋肉質な長髪。
?もやしのように痩せた理系タイプの眼鏡。