むべやまかぜを 2
デブはようやく自己紹介をし、そこで名刺を出してくる。
――営業 三重野保
名刺を受け取った花世はそこで小さく首をかしげる。
「三重野保。ねえ、営業って書いてあるけど、広報と営業、どっちが本当なん?」
少女は特に気にせずに思ったことをずばりと言った。
「営業もしますが広報もしてるんです」
「ふーん。だったら、営業って言やーいいじゃん」
「……」
営業よりも広報のほうが体裁が良いとでも思っているのか。高校生相手に見栄を張る中年男のこすっからさが物書きヤクザには鼻につく。
――てめー、営業なめんなよッ!
「ま、いいけどさ。で、それで、どうすんの? 何すんのよ?」
少女に鼻っ面を思い切り殴り飛ばされて、三重野は一瞬混乱したようであるが、すぐにいつものペースに戻った。
「えーとですね、うちはべれったがの主軸ブランドなわけですが、そのほかにも高原たちのラインがありましてね、さらにそれとは別の第三のラインをこれからみんなでやっていこうと、まあそういうことになりましてね。つきましてはそのシナリオを丸山さんでしたか、あなたに頼みたいとそういうことなのですよ」
「丸山さんでしたかって……別に、そりゃそれでいいけど、そんなんでいいの? 名前もよく知らんような奴の腕に全てを任せるなんてまともとは思えないんだけど」
「いや、それは、岡島さんのご推薦ですから」
頭の悪い広報は普通な様子で言った。丸山花世は渋い顔を作った。
時々いるのだ。自分の脳を働かせず、他人の『いい』をそのままに鵜呑みにする奴が
「四次元を立派にやられている岡島さんがね、推薦してくださる方でしたら間違いはないでしょう。それに、蒼ファルのシナリオライターの身内の方でもあるわけで……」
「あんまり、血筋とか重要視しないほうがいいよ」
丸山花世は嫌な顔のまま言った。
「それと、オカジーが何と言ったか知らないけど、私、エロは書かないよ。っていうか、書けないからさ。だから、あとで話が違うとか言われても困るから」
最初にできないことは言っておく。
「いや、それはそれでいいんですよ」
デブは揉み手で言った。
「今回はエロではないんですよね。あくまで一般作ということでして、ね」