むべやまかぜを 2
「小さな魂の人たちは一度大きな魂に引き込まれるとなかなか抜け出せなくなる。時には、大きな魂の人に取りこまれて一体化して、自分がなくなってしまうことすらある。私達の目には見えないですけれど魂の世界にも物理法則は当てはまるんですよ」
「……」
「三重野さんですか。その方たちもきっと、重力に引かれて抜け出せなくなってしまったんでしょう。それは、どうしようもありません」
業界に惹かれて。でも、何の能力も無い。拗けて、ただ拗けてこまねずみのようにして走り回る。行き着く先はどこなのか。
「ご本人が幸せならばいいのですが……そういうわけでもなみたいですね。でも、それも仕方が無い。男ですからね。自分で何とかしなくては」
「穏やかな顔をしてきついことを仰るんですね、大井さんも」
「そうですね」
大井弘子は焼酎を一口。
「斉藤さん。人生は……多分、空中ブランコ。こっちからあっちへ。恐ろしくても向こうのブランコに飛ばなければいけない。今乗っているブランコにいつまでもしがみついてるわけには行かないんでしょう。ブランコはやがて揺れ幅が無くなり、止まってしまう。止まってしまっては、あちらに飛ぶことはかなわない」
「人生は空中ブランコ、ですか……落ちたら、どうなるんですか?」
キャリアも名声も全て無くなる。べれったとしての小さな名声。それでもその小さな名声がなくなるのは恐ろしい。だが。大井弘子は平然として言った。
「また初めからやればいいんですよ。初めから。本当の空中ブランコとは違って人生はやり直しがきく。命まではとられないでしょう。それでいいんですよ。何度でも立ち上がればいい。それだけ。そう思いませんか?」
大井弘子はハートが強い。それは丸山花世も同じ。
「自分の作品も。そして他人の作品も許し、愛する気持があればいくらでも立ち上がってくる勇気は沸いてくる。そういうもの。私はそう思いますよ」
「作品を許し、愛する、ですか」
斉藤亜矢子は少しだけまだ迷いを残している。すぐには出せない結論。でも、結論を誰かが見出しているということが分かっていれば、厳しい道のりも多少は楽になるだろう。
「なんか……不思議な人たちですね。花世ちゃんも、大井さんも」
斉藤亜矢子は言った。
「血筋でしょう。そういう」



