むべやまかぜを 2
「人間って……大過なく生きられない。そういう生き物なんじゃないかって。大きな会社に入って、一生安泰。そんなのは幻想。祈りなんでしょう。そうあって欲しいという想い。でも、実際は会社が潰れてしまったり、人員整理にあったり。何も無く平穏無事に生きている人がこの世に存在しているという考えは、間違いなんですよ。みんな何か抱えていて、傷を負っていて。肩も痛いし足もむくむ。腰も痛い。それなのに同僚は無理解で……」
「そうなんですよねえ……」
斉藤女子はため息をつくようにして言った。
「本当にそうなんです……」
イラストレーターは続ける。
「……花世ちゃん、さっき、同人にまじめに取り組んでる人たちの多くは誰のバックもなく、会社の支援も無いままにやってるんだって、そんなこと言ってたでしょう……私、それ聞いてすごく耳が痛くて。確かに……私も、想い、汚れているのかなって。そんなことを思ってしまって」
「そんなことはないでしょう。花世はあの子はあれで物凄く潔癖で極論しか言わないから。結局、想いが正しければ、個人だろうが法人だろうが何でも良いんですよ。そのことはあとであの子にもいって聞かせるつもりですけれど」
「でも……ねえ。花世ちゃんと話をしていると、いろいろと凹むことばかりで……」
言いたい放題の丸山花世。言われる側は大変。
「良くも悪くも誰かの心に何かを残すことができるのはいい作り手なんですよ」
「……私、他人に何かを残してきたのかなあ」
斉藤女史は物憂げに呟き、すぐに大井弘子は言った。
「残してきたではありませんか。さっきの花世の顔、見たでしょう? ちょっと淋しげで。もしかしたら斉藤さんだったら自分の味方になってくれるんじゃないかって、あの子、そんなこと言ってでしょう?」
「ええ……そうですね」
「あなたも花世の心に何かを残したのでしょう。だから、あんなことを言った。あの子にああいうことを言わせることがきるのは、やっぱり、同じぐらいの質量を持った魂だからなんですよ」
「同じぐらいの質量……」
「魂にも重さがある。斉藤さん。小さな魂の人たちは大きな魂が持っている重力に惹かれる。それがファンです」
「うーん……」