むべやまかぜを 2
「あるのは自分の見栄と業界への執着心ばかり。おまえら一度で良いから自分たちの作品に本気で向き合ってみろよ。三重野のおっさんも、自分でシナリオ書きゃいいんだよ。高原のおっさんもそう。 雨宮もグラフィッカーなんて逃げ回ってないで、テメーで原画から立ち絵から全部描けば良いんだよ。みんな自分でやってみりゃいいんだ。それでは売れない? でも、いいんだよ、売れなきゃ売れないで。それが連中の実力じゃんか。その程度の実力なんだよ。でもそれでいいじゃん。何を恥じることがある? 売れなくたっていい。売れなくたって手塩にかけたわが子同然の作品。 いとおしいと思えればそれでいいんだよ。ってか、そういういとおしい気持があるから作品って作れるんだよ。作り続けることかできるんだよ。いとおしいと大事に思うからこそ作品って作れる。 まっすぐに『大事だ』って思えっからこそ作品作れるんだ。サイトーさん、それ以外に何があんの?」
物書きヤクザは澄んだ瞳でイラストレーターの顔を覗き込んでいる。
「同人ってそういうもんでしょ? それでいいから同人なんじゃんか」
「それは……」
斉藤亜矢子は困っている。会社をバックにしているのはそれは斉藤亜矢子も同じ。そして丸山花世の言葉はあまりにも純粋。
「絶望的な作品。そりゃそれでいいよ。作れば。でもさ、テメーらの心の弱さのせいで殺されていくキャラクターのことを連中はちったあ考えろよ」
――消費されていくキャラ。だからいとおしい。
龍川はそう言っていた。亡くなった若者はそう言っていたのだ。そしてそれは丸山花世も同じ意見。生み出されるキャラクターはすでに、そこで人格を与えられている。
「キャラクターはさ、言霊が乗ってて、そいつはもう一個の人間と同じなんだよ。奴らには奴らの痛みがあって哀しみがあるんだよ」
真剣に作品に向き合う丸山花世にとっては。一ノ瀬も、鷹畑も、一個の生ける人間として感じられる。だから、丸山花世は彼らのことをあざけりながらも深い同情の目で眺めている。そしてその反射としてキャラをゴミとして扱う三重野たちには醒めた視線を送る。
「死ぬために生まれてくるキャラなんてさ、 気の毒な子たちだよ」
丸山花世は静かに続ける。