むべやまかぜを 2
丸山花世の解説を聞きながら、大井一矢が茹でたアスパラを斉藤女史の前に置いた。斉藤所はそれには手をつけない。
「でもね……なんていうか。私も……いろいろとあって……」
「いろいろ?」
丸山花世は不思議そうな顔になった。
「やっぱり……ねえ、あんなにストレートに誰かを悪者にするのは、ねえ」
斉藤女史は大人である。そして、丸山花世は子供。
けれど、どちらが正しいというわけでもない。
「そうかね?」
少女は柔和な表情をしている。
「連中は……悪だと思うよ」
物書きヤクザは断言した。
「三重野のおっさんたちは悪だよ。サイトーさん」
「悪? そうかな……おかしな人たちだとは思うけれど……」
「おかしな性格は別にいいんだよ。それは悪じゃない。作り手の悪は……そういうことじゃないんだよ」
「……」
「作り手にとっての悪は自分の作品にマジになってないってことだよ。それ以外に作り手の悪はないんだ」
「マジ……」
物書きヤクザは続ける。
「そう。『同人同人』ってさ……なんか、三重野のおっさん、自分たちでやっているくせにその同人の仕事を侮っているんだよ」
丸山花世は淡々としている。怒りも侮りもない。冷徹に、冷静に。
「……」
「同人の世界でさ、良い作品作ろうって頑張っている子たちも大勢いるわけじゃん。個人でやってる奴とか、仲間内でやってる小さなサークルとか。で、そいつらはバイトしたり、いろいろやって資金を工面してやってる。それで、笑ったり泣いたりしてやってる」
丸山花世には丸山花世の理屈がある。
「でも、三重野のおっさん達は違うんだよね。『売るの僕です』とか『同人だったらそれほどの損がないので問題ない』とか臆面も無くトンチンカンなことを言いやがる。そうじゃないと思うんよ」
「……」