むべやまかぜを 2
「っていうか……なんか、みんな、暗い顔になってしまって。あなたの作品読み始めてから……」
罵声。嘲り。侮り。
夢魔の言葉は三重野たちに向けられたもの。でも……それは事実。
「みんな……そういうことになるとは思ってなかったみたいなのね。そんな……作品になるとは。自分たちが作品を介して批判されるとは」
斉藤女史は途方に暮れているようである。
「……もっと、適当な、もっと、ありがちで、悪く言えば、どこかで見たような……パクリのような作品。その程度のものをみんな考えていたみたいなのね」
斉藤女史はまた肩が痛むのだろう。しきりに右腕を気にしている。
「……無理やりに自分たちと向き合わされるような、そんな作品になるとは思っていなくて。特に雨宮君なんかは相当のショックを受けたみたいで」
「ふーん」
丸山花世は曖昧に頷いた。
「……本当に絶望的な作品になってしまったのね」
「でも、それを三重野のおっさん達は望んだわけっしょ」
「でもねえ……」
斉藤女史はどうにもやりきれないといった表情である。そして大井弘子はアスパラガスを茹でている。
「ねえ。花世ちゃん。ひとつ聞いていい?」
「どーぞ」
「作中に出てくる佐藤……佐藤晃のモデルは、私?」
斉藤女史は丸山花世の瞳を不安そうに覗きこんだ。
愚かしくもせせこましい主人公達。その嫉妬心の向かう先であり、とても追いつけないと絶望する相手。それは、もしかしたら自分なのではないか。斉藤女史はそう考えている。そして丸山花世は首を横に振った。
「佐藤のモデルはサイトーさんじゃないよ。サイトーさんは海外に行ったりはしないっしょ」
「そうだけれど……」
「佐藤は成功者の一種のイデアだよ。いろいろな人、先駆者の総合。それが佐藤。だから、サイトーさんがもしも自分を成功者だと思っているのだったら、サイトーさんも佐藤の原型の一人、とは言えるよ」
丸山花世は揺るがない。
「そうなんだ。やっぱりそうなんだ……」
一方、斉藤女史ほうは戸惑っている。
「……ねえ、花世ちゃん」
「何?」
「……みんなはやっぱり、私に嫉妬しているのかな」