むべやまかぜを 2
岡島がちょっと淋しげに言った。龍川のことを思い出しているのだろう。花世も頷いた。死んだ人間のことをいつまでも思っている場合ではない。それよりも今は死んだ人間に顔向けができる、そんな生き方をしなければならない。物書きヤクザは編集のことを押すようにして部屋に入っていく。
「こっちです」
小柄な斉藤女子はそのようにして言った。来客が通されるのは小さな会議用のブース。
「ふーん……」
丸山花世は辺りを見回した。
社員は……全部で十人ぐらい。いや、もっとか。
「それで……何すんの?」
物書きヤクザは編集殿に訊ねる。
「同人のゲーム作るってことみたいだけれど。斉藤さん、あんたが作るの?」
美人のイラスト担当に少女はぶしつけに聞いた。
「いや、私は、別のラインだから。今回は、ほかのスタッフが来ます」
「ふーん」
丸山花世は頷いた。ただ頷いただけではない。なかなかに聡い物書きヤクザは自分が話をしている相手の様子をそれとなく伺ってる。
「……」
ざらりとした妙な違和感。斉藤女史の言葉に感じられた何とは無い他人行儀な風。少女はそのことを心の中で確かに押さえている。
「じゃ、担当のものを呼んできますから……」
小柄なイラストレーターはそのように言うと去って行き……代わりにおかしな奴がやってきた!
「どうもどうも、お忙しいところをわざわざどうも……」
背が低く、横幅のある中年男、であった。眼鏡が頬肉に食い込み、髭を生やした奇妙な人物。甲高い声でべらべらとしゃべる中年男は、当然だが花世のお眼鏡にかなう人物ではありえない。
「ああ、岡島さん、お久しぶりです。どうですか、四次元の売れ行きのほうは」
「ええ、まあ……」
よくしゃべる中年男に花世はすでに相当機嫌が悪い。
「ああ、こちらが丸山さん……高校生で作家さん、はあ、たいしたものですね」
オメガ文庫の末吉もそうであるが、この髭男も調子が良いばかりで、いかにも重みがない。昨今の中年男というものはこんなに軽いものであるのか。
「やっぱり、何かの賞でもとられたんですか?」
――なんでもいいだろ。
物書きヤクザは、異様にへりくだる中年男にじっとりとした嫌な視線を送っている。そろそろ気の短い小娘は沸点である。