小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

むべやまかぜを 2

INDEX|59ページ/71ページ|

次のページ前のページ
 

 相手はどこで見繕うのか。その算段を丸山花世は立てていない。
 と。
 いつものように、閉店間際のイツキにその日最後のお客が現れる。それは女性。初めて顔を出す一見客。
 「あの……」
 少女は聞き覚えのある声に振り返り、そこで言った。
 「あれ、サイトーさん……」
 斉藤亜矢子。べれった。突然の訪問に物書きヤクザは不思議そうな顔し、一方大井弘子は穏やかに笑った。
 「斉藤……亜矢子さんね。べれったさん。花世がお世話になったとか」
 斉藤亜矢子はちっょと困ったような顔をしている。
 「サイトーさん、なんでここに?」
 「岡島さんにね、教えてもらったの……あの、お店、大丈夫ですか?」
 大丈夫とはつまり、開いているのか、ということ。
 「どうぞ」
 女主人はそう言って笑った。
 「何か、飲みます? ビール?」
 「あの、それは……」
 呑みに来たわけではない。斉藤女史はそう言いたげであるが、丸山花世はそんなことは気にしない。
 「まあいいじゃんか。金はちゃんと払ってもらうけど」
 少女はテキトーに言い、イラストレーターは困った顔のまま席に着いた。
 「だったら……ウーロンハイを」
 「はい」
 大井弘子は頷くと、すぐに準備に取り掛かる。
 「ああ、だったら、花世、ウーロンハイ、作ってくれる?」
 「ああ、いいよ、分かった」
 グラスに焼酎を注いで、あとは氷、それからウーロン茶を混ぜればそれで出来上がり。
 「こんなもんか、焼酎、多めにしといたから」
 何故アルコール分を多くするのか、その意味が分からないが、丸山花世は言った。サービスなのか。
 「あい」
 丸山花世はそう言ってグラスをべれったの前に置いた。
 「で、今日は何の用? アネキと話?」
 「ああ、そうだ、大井一矢さんって、あなたの親戚だったのね」
 「うん。そう」
 丸山花世は自分の席に戻ると再び焼きおにぎりをかじり始める。
 「知らなかった。そんなに有名な人の親類の人だったなんて。しかも、大井一矢さんって女の人だったなんて……」
 大井弘子はただ笑って、イラスト女史の前に小鉢を置いた。トコブシをしょうゆで炊いたもの。
 「どうぞ」
 「あ、はい……」
 甘辛く煮た小さな貝。イラストレーターは不思議そうに見ている。
作品名:むべやまかぜを 2 作家名:黄支亮