むべやまかぜを 2
相手はどこで見繕うのか。その算段を丸山花世は立てていない。
と。
いつものように、閉店間際のイツキにその日最後のお客が現れる。それは女性。初めて顔を出す一見客。
「あの……」
少女は聞き覚えのある声に振り返り、そこで言った。
「あれ、サイトーさん……」
斉藤亜矢子。べれった。突然の訪問に物書きヤクザは不思議そうな顔し、一方大井弘子は穏やかに笑った。
「斉藤……亜矢子さんね。べれったさん。花世がお世話になったとか」
斉藤亜矢子はちっょと困ったような顔をしている。
「サイトーさん、なんでここに?」
「岡島さんにね、教えてもらったの……あの、お店、大丈夫ですか?」
大丈夫とはつまり、開いているのか、ということ。
「どうぞ」
女主人はそう言って笑った。
「何か、飲みます? ビール?」
「あの、それは……」
呑みに来たわけではない。斉藤女史はそう言いたげであるが、丸山花世はそんなことは気にしない。
「まあいいじゃんか。金はちゃんと払ってもらうけど」
少女はテキトーに言い、イラストレーターは困った顔のまま席に着いた。
「だったら……ウーロンハイを」
「はい」
大井弘子は頷くと、すぐに準備に取り掛かる。
「ああ、だったら、花世、ウーロンハイ、作ってくれる?」
「ああ、いいよ、分かった」
グラスに焼酎を注いで、あとは氷、それからウーロン茶を混ぜればそれで出来上がり。
「こんなもんか、焼酎、多めにしといたから」
何故アルコール分を多くするのか、その意味が分からないが、丸山花世は言った。サービスなのか。
「あい」
丸山花世はそう言ってグラスをべれったの前に置いた。
「で、今日は何の用? アネキと話?」
「ああ、そうだ、大井一矢さんって、あなたの親戚だったのね」
「うん。そう」
丸山花世は自分の席に戻ると再び焼きおにぎりをかじり始める。
「知らなかった。そんなに有名な人の親類の人だったなんて。しかも、大井一矢さんって女の人だったなんて……」
大井弘子はただ笑って、イラスト女史の前に小鉢を置いた。トコブシをしょうゆで炊いたもの。
「どうぞ」
「あ、はい……」
甘辛く煮た小さな貝。イラストレーターは不思議そうに見ている。