むべやまかぜを 2
それは……三重野たちが望んでいない結末。だが、それでも構わないのだ。嫌ならば、原稿を突っ返してくればいい。最初に花世は言っている。金は、気に入ったら払ってくれ、と。
「ま、そういうことで……」
――時間はない。期限は迫る。ではどうやって、のぞみを救うのか? 一ノ瀬は少しずつ本当の敵が誰であるかを理解していく。それは……自分を作った人間。自分を作らせた人間ではないのか?
自分をこのようにしたのは誰?
そこで必要とされるのが一ノ瀬清。父親。
息子の穣が三重野を素材にしながら、オリジナルに近い人物であるのに対して、父親の清は三重野そのままの人物像となっている。小心で傲慢。無責任。大きなことばかりを言い、やたらと著名人と会いたがる。そしてそのことを喧伝し実力の無い自分をことさらに大きく見せようと画策する矮小な人物。
「会社の金で宴会やって、でも、集まった連中にはまったく感謝されず……」
業界に何としても留まりたい、ルサンチマンの塊。三重野の悪い部分を全て集めた純粋悪。息子は、この愚かな父親に反発するようになる。それはキャラの三重野に対する敵意であり怒り。一ノ瀬穣の父親に対する怒りはそのまま三重野という男に対する怒り。自分が侮蔑と憎悪の対象であることを三重野は知らなければならない。
――内実を理解すればするほどに愚かな父親。こんな人物が生き、オレの幼馴染、清い心の乙女が死ぬのは間違っている。そんなことあっていいわけがない。
そして夢魔はそのような一ノ瀬穣のことをけしかける。
――そーだそーだ! あんな奴、ぶちのめしちまえ!
そして、一ノ瀬穣は父殺しを決行するのだ。それが物語りのクライマックス。人気の無い荒れ寺に父親、三重野≒一ノ瀬清を呼び出した息子は、まず、自分に憑いていた呪いを父親に押し付ける。さらには、のぞみに命じて穣自身にのぞみについた呪いを写させる。そして。父親がおかしなことをしないように、これを自分自身の手で殺害する。
「三重野のおっさんね、全員殺してくれって言っとったし……ま、納得してくれるだろーよ」