むべやまかぜを 2
丸山花世は迷っている。
「本当は……一人ぐらい生かしておきたいんだけれどなー」
一人ぐらい、生き残るしぶとい奴がいてもいいはず。けれど。
「ま、いいか。三重野のおっさんが俺たち全員殺してくれって言ってるわけだし……」
皆殺しがお望みならばそういたしましょう。
――気弱でぼんやりした上林はイジメにあっている。それを一ノ瀬に救ってもらったことがあるのだ。だが、一方で、上林は自分を救ってくれた一ノ瀬が本質的に自分を馬鹿にしているということを理解している。だから、心の中では一ノ瀬に反発している。
「……ま、設定はこんなところか」
本当は慕っていない。本当は憎んでいる。だから曲がる。拗ける。それでも表面上は付き合っている。小突かれたり、嘲られたり、恩に着せられたり。デリカシーのない一ノ瀬穣のことを嫌いながら、付き合わざるを得ない。それは……三重野保と神田要の関係との相似。
そういう関係が状況を悪化させることになるのだ。
――死にたくない。だから、誰かを呪う。
「原、原、原……原のぞみ、ね。うん」
七 原のぞみ
メモの最後に書き記された最後のキャラ。ヒロイン、である。
上林は夢魔に唆されて、一ノ瀬の幼馴染のである原のぞみに夢魔の呪いを押し付ける。自分が助かるために。だから呪う。
「この女の子は……モデルはいない。なぜならば、この子は希望だから。私自身の祈りだね」
丸山花世は作品に希望を残したいと思っている。三重野たちは勝手に絶望すればよろしい。だが、作品には希望を残す。苦悩したいのはスタッフであって、読者やユーザーではないのだから。
「独りよがりなんだよね。三重野のおっさん達は。同人だから、まあいいだろうってそういうなめたコンジョーがムカツクんだ。同人に命かけてる奴もいるわけでさ。そういう奴らの思いを考えれば、手慰みに作品作ってごまかそうってそういうさもしい根性はやっぱりゆるせんよなー」
――次々に仲間が死に、彼らの仮面が引き剥がされていく。そこではじめて一ノ瀬穣は自分が友人達から真にどう思われているか、自分がどういう人間であるかを思い知って行く。そして、幼馴染ののぞみを助けようと最後の抵抗を試みる。