むべやまかぜを 2
斉藤亜矢子は作品に携わっていない。彼女は、別に衝撃的な作品を望んでいないわけで、望んでいない人間の魂なり人格を引っ張ってくることはこれは許されない。で、あれば、佐藤晃という人物はこれは世間一般の『成功者』たちのイメージ。海外に渡ったメジャーリーガーであり、新製品を作って売りまくる企業のトップであり、無一文から成り上がって宰相にまで成り上がった人物であるとか。そういう成功者の魂。眩く輝く太陽のような人々。ただ。夢魔は決して、そういう輝かしい業績を持つ人々を手放しで褒めたりはしない。
――光が強けりゃ、影は濃いんだけれどさ……チューヨーって知ってる? チューヨー。中庸。なかなか人間ってそうならないからさ。別に偉くてもいいことってないんよ。金のない奴は金が無いことで悩むけれど金がある奴はあることで悩むんよ。名誉やサイノーも同じだって。
だが。
輝ける人物に憧れ、目がくらんでいる天木には丸山花世の言葉が理解できないのだ。
――オレだって! オレだってチャンスがあればなんとでもなったんだ! なんであいつが! オレじゃなくてなんで佐藤が!
そして、天木の腹の中の憎悪を夢魔は冷静に見つめている。
――そりゃー、あんた、やったもんがちでしょー。外国行って作品作ったの、佐藤って人であって、あんたじゃない。あんた、自分で何にもしてないのに誰もオレの功績を認めないって怒るのは、そりゃ、ずうずうしいってもんよ。あんたも文句があるんだったら、パリでもニューヨークでも行きゃいいじゃんか! あんた、自分が心弱いだけじゃん。
そして、友人が浴びる賞賛に激しい怒りをたぎらせながら天木もまた呪いによって蝕まれていく。
――そんなことは……ない。そんなことはおまえには関係ない!
天木は喚きながら……校舎から転落し、全身を強打して死亡する。そして夢魔はつぶやくのだ。
――まー、確かにカンケーないけどさー。
そしてそれは丸山花世の呟き。
「プライドとか……経験とか、さ。いくらでも取替えのきく奴ほどそういうことを言うのはなんでなのかな……」
三重野のリクエストの通り、一ノ瀬のクラスメイト達は次々に死んでいく。ライトノベル作家志望の上林も例外でない。小説家志望の若者も結局は殺される。だが。