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むべやまかぜを 2

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 金が稼げない。生活苦。手が遅い。他人とうまくやっていけない。自分が愕然とするほどにうまい奴らがごろごろいる。実家が金を持っていて、だから、金の心配をしなくてもいいような奴らがいて。それに比べて資産のない自分はそうではなくて。だから逃げ出した。持ちこたえきれなかった。
 さまざまな理由。ただ結果として自分は持ちこたえ切れなかった……それが高原という実際の男が業界を去った理由。 
 挫折、である。そして挫折しながらも思いを断ち切れない。思いを何時までも引きずっている。夢魔はそれを……ただ嘲笑するだけでははなく、時に哀れみ、同情もする。夢魔とて、殺したくて殺しているわけではない。
 『衝撃的で後味の悪いものを作ってくれ!』
 という依頼があったからこそ夢魔は夢魔をやっているのだ。
 
 ――頭、切り替えたほうが良いんじゃねーの? 幸せってさ、得るものじゃないよ。気づくもんなんよ。

 だが、鷹畑≒高原は丸山花世の言葉には耳を傾けない。傾けないままにダンプに跳ね飛ばされて死んでいく。 
 高原だけではない。天木もそう。美術部の若者もまた挫折を味わっている。グラフィッカー。有限会社グラップラーの中でべれったに一番屈折した思いを抱いているのは雨宮ではないか。
 
 ――誰もオレの才能を理解していない。理解できる奴がいないんだ!
 
 つっぱり、いきがって攻撃的になる矮小な画家志望。そんな天木というキャラにとっては佐藤は眩く、シンパシーを感じながらも恐れている相手。何も持たず、身一つで、海の向こうに渡って行った無謀な友人。羨ましくもあり、尊敬もする。けれど、心のどこかで友の失敗を願っている。
 
 ――オレもダメだったよ。

 天木はそうやって友人が尾羽打ち枯らして逃げ戻ってくるのをどこかで待っている。でもそうはならない。ならないのだ。それがクライアントのプロデューサーの要望であるのだから。
 小娘はぼんやりとしたまま呟く。
 「サイトーさんは……佐藤みたいな強さとか無謀さはねーよなー」
 物語の中で、実は唯一、佐藤晃だけが斉藤亜矢子とは重なっていない。ほかのキャラは全てグラップラーの関係者の近似値。佐藤晃だけが≠で斉藤亜矢子。
 「ま、サイトーさんはライン別の人だしね……」
作品名:むべやまかぜを 2 作家名:黄支亮