むべやまかぜを 2
『絶望的な作品。後味の悪い作品を書いてくれ!』
不幸にしてくれ。客を。読み手を。その読み手の中には当然三重野も含まれる。だから花世はそのリクエストに従っている。ただそれだけのこと。そして、そうすることは、多分、物語の神様が望んでいること。
「ま、こんなところか……」
丸山花世は物語を書き進めていく。
一ノ瀬穣と彼に取り付いた夢魔の会話を中心に物語は進んでいく。突然現れた夢魔に対して不安を覚え、反発する一ノ瀬穣は最初は夢魔の言うことを信じない。
――そんなことあるものか。信じられるものか。
だがそんな一ノ瀬の希望的な観測もむなしく、彼の仲間達は次々に死んでいく。しかも、彼ら自身のルサンチマンを抉られ、暴露された上で錯乱しながら。鷹畑という青年は、野球部枠で入学しながら、練習についていくことができずにドロップアウトをしたことを気にやんでいるという設定。中学時代はエースだった鷹畑。だが、それも今は昔。誰も彼の業績を覚えてはいない。鷹畑の生き方はそのまま高原の人生につながる。アニメ業界に入り、そこでうまくやれずにエロゲー業界に流れついた高原。彼が関わった作品のことを今覚えているものはほとんどおるまい。
――昔、オレが会ったあの監督は陰険な奴で……。
中学時代に世話になった野球部の監督について熱心に吹いて回る鷹畑の言葉は、かつて高原が業界に入った頃のアニメの監督についての評とまったく同じ。居酒屋で丸山花世の耳に偶然に入った高原の言葉そのままであるのだ。
――オレだって。オレだって昔は。オレだって……あのままアニメ業界に入れば。
高原の無念さは彼と≒となる鷹畑の口惜しさにつながる。
――あのまま……あのまま続けていれば。
そして、そこに夢魔は襲い掛かるのだ。夢魔は鷹畑というキャラを通して高原に語りかける。
――だったらさー、ずっとやってりゃいいじゃんかー。アニメ屋。
それができない。鷹畑もそして高原もできなかったのだ。
――なんで道を全うしないのよ? すりゃーいいじゃん。