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むべやまかぜを 2

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 ただし。一ノ瀬は≒で三重野であって=で三重野ではない。このあたりは非常に複雑である。丸山花世は三重野保つという男のことをまったく評価しておらず、このような人間に慈愛をかけるのは文字通りの無駄である思っている。だが、一ノ瀬というのキャラに対してはそうではない。一ノ瀬は三重野の分身であるが百パーセントの同人格ではない。
 
 ――一ノ瀬よー。一週間あんだから、頑張ってみろよ。最後まであきらめんじゃねーっつーの。
 
 物語の中で夢魔は一ノ瀬を嘲弄する一方で励ましもする。
 
 ――最後まで人生、わかんねーだろ?
 
 心の奥にルサンチマンを抱え、仮面をつけてそれでも生きていく。世間を騙し、自分を騙し、虚勢を張って生き続ける。三重野はそのことを当然としているが、三重野の魂を勝手に切り取って丸山花世が立ち上がらせた三重野の息子はもう少しまともであり、で、あるから自分の人生に疑いを持っている。
 
 ――オレは……本当にこんなのでいいのか。何かできることはないのか。
 
 『キャラは絶望の中で死んでいく。それがいいんですよ!』三重野は嬉々として言っていた。だが。キャラにはキャラの思惑がある。彼らは人が作り出すもの。だが、彼らは形こそもたないが彼らの意思があるのだ。少なくとも丸山花世はそう思っている。名前をいただき動き出すことで、彼らはまるで実在する人と同じように、考え、行動を始める。であるからこそ、キャラクターというものは自分の思い通りになると考える時点で、そいつは作り手として相当に拙い。わかっていない人間の発想。そして、わかっていない人間が作るものが売れるということはない。それだけは絶対にないのだ。だからこそ丸山花世はアホなクライアントに最後までつきあうつもりはない。むしろ、アホなプロデューサー一人を生贄にして金が儲かるならばそっちのほうがましと考えている。
 「三重野潰して会社儲かるならそっちのほうがよっぽどいいよなー」
 小娘はぼんやりとした表情でメモをもう一度見やった。
 
 六 一ノ瀬清……三重野保
 
 メモにはさらに別キャラの名前がある。それは一ノ瀬穣の父親。かなり重要なポジションの人物。
 「売るの僕なんだから……ま、売ってあげましょ」
 丸山花世は軽薄にキーボードを叩く。
作品名:むべやまかぜを 2 作家名:黄支亮