むべやまかぜを 2
キーを叩きながら小娘は嫌な顔を作った。ゲームであるから、取るべき選択はプレイヤーに任されているが……どっちにしろ、主人公は死ぬ。死ぬのだ。何をしても無駄。何をしてもだめ。結局はみな死ぬ。なぜならばそれがクライアントの意向であり……そして、三重野の願望であるのだから。ちなみに作品が売れるか売れないかはどうでもいいこと。会社的には問題のあることだが、少なくともチーム三重野は売上には関心はないらしい。そしてそんな連中に雇われる丸山花世の立場は微妙。
――まー、頑張ってよ。一週間しかないけど。でも一週間あればいろいろなことできるっしょ!
花世の分身である夢魔は必ずしも悪ではない。ただ真実を抉り出すのだ。キャラクター、つまり三重野の分身たちは、夢魔が映し出す自分たちの真実の姿に怯え、哀しみ、怒る。それは当然、シナリオを読むスタッフ達の心にも大きな痛手を与えることになるはず。それをこそ絶望といい衝撃というのだ。
「三重野も他の連中も、ま、自分の人生を見つめなおすといいんじゃねーの?」
丸山花世はぼそりと言った。
丸山花世の分身である夢魔はキャラクターの感情からは超然としている。それは自分とは関係ないもの。ただ、一方で夢魔は、行き場の無いままに死んでいく一ノ瀬たちキャラに深い同情を覚えている。一ノ瀬たちは三重野の分身である。現実にいる三重野たちの写し身。だがそうやって生まれたキャラそのパーソナリティを丸山花世によって与えられているのだ。むしろこのあたり本人というよりは子供であるとかクローンに近い。魂のクローン、である。
――無能なクライアントによって無理やりに死地に送られるように定められた気の毒なキャラクター達。
そういうキャラクターを亡くなった龍川が見たら何と言うだろう。
「たっつんだったら、きっと怒るだろうなあ……」
頭の悪いプロデューサー気取りの中年男が手慰みで作るキャラクター。それは当然丸山花世の怒りにもつながる。
――テメーら、物語をテキトーな気分で作るんじゃねーっつーの! それも他人の金で!
花世は誰かの能力の無さを侮ったり嘲ったりはしない。そいつが出来る範囲で出来る限りで自分の言葉をつむいでいく。それこそが一番尊いこと。そうでないのならば……それは当然侮蔑の対象になる。