むべやまかぜを 2
という言い回しのほうが三重野の本心に近いように感じられる。そうしてでも業界にしがみついたい。血を流してでも業界にいたい。けれど、そうするのは怖い。自分ではとてもではないが自分の暗部、恥部をさらけ出すことができない。恐れと不安。渇望。だったら花世がそれをすればよい。料理は料理人に任せればいいのだ。ただ、そうまでして関わり続けるほどにオタク産業に価値があるのかは花世には分からない。
学校名 私立神明高等学校
物語は都内の私立高校、神明高等学校が舞台となる。斜陽の映画産業に憧れる若者。いつか業界に入って作品を撮ろうとする青年一ノ瀬穣が主人公。友人には元野球部の若者で一ノ瀬の良き相談相手となる鷹畑がいて、美術部に所属する天木がいる。そして後輩でライトノベル作家志望の上林。そしてヒロインの原のぞみ。子供の頃からの仲の良い若者達。穣の父親である清の存在、であるとか。あくまで設定は普通の作品。普通の青春ドラマ。けれど、それは普通の作品ではない。
「で……悪魔と」
小娘は呟く。
〇 夢魔……丸山花世
悪魔の代わりに夢魔。物語には作り手となる丸山花世もちゃんと出てくる。てるてる坊主のような風体の怪物。それが丸山花世の分身キャラ。
「物語の中心となるのは夢魔」
コンピューターの画面を見ながら小娘はぼんやりと言った。
怪異。そやつが突然主人公、一ノ瀬=三重野の前に現れるのだ。日常は破綻し、精神ドラマは青春ドラマではなくなる。
――あのさー。あんた、一週間後にくたばっから! 死にたくなかったら、写メで誰か撮影して。そしたら、あんたは助かって、写メで撮られた奴が死ぬから。
夢魔のそのような言葉に当然一ノ瀬は惑乱する。自分は死ぬのか。そんな馬鹿なことがあるのか?
――ああ、それから、誰が自分の写メ撮ったか、それを暴いたら、あんた死ななくて済むから。かわりに、あんたに私を押し付けてきた悪人がくたばるからさ!
誰かに呪いを押し付けるか、誰が自分に呪いを押し付けてきたのか暴くか。選択は二つに一つ。それは三重野たちが思いつきで作ったルール。不細工でデタラメな法則。
「不細工な仕掛けだよね……」