むべやまかぜを 2
三重野はまったく状況を理解しておらず、だから明るく笑った。何もこのようなところで部下の屈辱的な人生を詳らかにしなくてもよさそうなものだが、そういうことをする。三重野という男はそういう男。
「うん。そういうことだったら、まあ、いいや」
花世は頷いた。分かってないならば分かっていないうちにバラして始末してしまうのがいい。
「だったら、他に特に、何もないみたいだったらすぐに作業に入るわ」
ヤクザよりも怖い物書きヤクザの真骨頂を見せるときである。
「よし……まあ、こんなところか」
液晶画面を見ながら丸山花世はつぶやいた。
いつものように、液晶モニターにはメモが貼り付けられている。
キャラ名
一 一ノ瀬穣……三重野保
二 鷹畑真二……高原浩二
三 天木彰人……雨宮博明
四 上林昇一……神田要
物書きヤクザによって紡がれる『衝撃的で絶望的』といういかにも頭の悪い作品。その作品のキャラは当然、それを望んだスタッフたちの分身でなければならない。
花世本人が絶望的なものを書きたいとそう思ってはじめたのであれば、キャラは当然丸山花世の分身となる。使うべき原材料となる魂は自分のもの。だが、丸山花世はそのような作品を望んでおらず、それを望んでいるのは三重野たち。だとすれば、材料はそれを望んだ連中から徴収する。金は会社のもの。労力は丸山花世に丸投げ。それで名声は自分が持っていこうというその根性はいかにもさもしい。
「それに『売るの自分』って言ってたし……」
売るのは自分。三重野は『商品を営業で売るのは自分』という意味で言っている。だが、丸山花世は別の意味でそれを捉えている。
『僕を切り売りして良いですよ』
三重野はそう言っている。丸山花世はそのように理解している。曲解、であるのだが、小娘の耳には、むしろ、
――自分を切り売りしてください。