むべやまかぜを 2
作品とは人生。人生こそが作品。
「……で、あとは? ほかには?」
花世はちょっと疲れたように言った。雨宮も神田も何も言わず、ただ一人、三重野保だけが喜んでいる。
「いいえ! もう十分ですよ!」
「ふーん。分かったわ。だいたいは」
「そうですか!」
三重野は魯鈍に笑っている。花世は最終確認をする。
「読者に衝撃を与えて、後味の悪い、絶望感を味わわせる作品にする……んだよね」
「そうです!」
三重野保は笑って言った。
「で、学園物で、悪魔が出てきたりする。あとは呪い。携帯電話を使って増殖すんのね、呪いは」
「そうですそうです!」
「で、そっから、あとは私が適当に作品を作ればいい……そういうことなんだよね?」
「ええ! その通りです!」
「ふーん」
丸山花世は納得した。
――アバウトな指示だよね。
とは物書きヤクザは言わない。
「で、『売る』のは三重野さん」
「その通りです!」
「分かった」
物書きヤクザは首を縦に振った。
「あのさ、それで、ひとつお願いがあるんだけれど」
「なんでしょう?」
「支払いのこと。お金。お金はさ、全部書きあがって、それをあんたらで読んで、それで、値段をつけて欲しいんだよ。価値が無いと思ったらゼロ円でいい。価値があると思えばいくら出してくれてもいい」
「……」
少女の申し出に、スタッフ連は戸惑っているようである。
「いい作品を作ることは約束する。けれど、それがあんたらの気に入るものになるかは分からないからさ」
「ははは、そんなことを言わないで、いいんですよ! お支払いはちゃんとしますよ!」
三重野は丸山花世の言葉を理解できておらず、だからいかにも明るい。だが。少女は首を横に振った。
――その金はあんたのじゃなくて、会社のお金じゃんか。