むべやまかぜを 2
「最初はね、ノートに名前を書いていくと人が死んでいく……そういうのを考えていたのですが」
「考えるって、そういう作品あっから」
丸山花世は念を押してもう一度語った。
「そういう作品、すでにあるから」
「いや、それは……もう分かっているんですよ、ははは!」
笑っている三重野のことを花世はじっと見つめている。普通の人間ではちょっと居心地が悪くなるような視線にも三重野は動じない。『感じる』という部分がもしかしたら三重野の欠落しているのかもしれない。
「で、神田君と雨宮君がね、それだったら携帯を使ったらどうかと。携帯で写真を撮ることで呪いを伝播させていく……」
「ふーん……」
「是非ね、このネタを使って欲しいんですよ! 作品のキモってやつですか?」
「キモねえ。まあいいけど」
丸山花世は適当に言った。やってくれと言われればいくらでもやる。何故ならば作品のキモはおそらくそこではないから。枝葉の部分での妥協はいくらでもする。
「あと……七日で死ぬっていうのもやるんじゃなかったんすか?」
ぶすっと押し黙っていた雨宮が言った。
「そうそう! 七日! 高原と考えたんですけれど、呪いは携帯で写真を撮られると発動して……七日後に死ぬわけですよ! で、それを防ぐには、自分以外の誰かを写真で撮って、悪魔を移し変える必要がある」
「ふーん……」
説明が後手後手になるのは……このスタッフの流儀なのか。
「ですからね、主人公達は葛藤していくのですよ! けれど、仮に悪魔を移し変えても結局は無駄。七日後にみんな死んでいく。死んでいくんですよ!」
三重野はひどくうれしそうである。そして丸山花世はそんな三重野の言葉を翻訳して聴いている。
――結局何をやってもダメ! もう先がありません僕達は! 才能のない僕達は結局このまま死んでいくんですよ!
三重野の言葉の本当の意味、三重野自身も理解していない無意識の言葉の意味はそういうもの。
「気の毒といえば気の毒だよなあ……」
花世はぽつりと言い、スタッフ達はそこで不思議な沈黙を作った。
理性と理性の交渉、ではない。
それは、業界という呪いにかけられて深い深遠に沈みこんでいく人々の魂と、それを見つめる傍観者の魂が一瞬交錯した瞬間。魂の交わり。