むべやまかぜを 2
――この作品はならないな。
丸山花世はそのようなことをなんとなく察している。それでもアホなスタッフに付き合うのは、やはりそこに意味があると思うから。
「まあいいや。イラストのほうはそっちでなんとかするっしょ。私は私の仕事すっから」
丸山花世はシナリオの外の問題についての話を適当に切り上げた。
「で、それで、高原さんがいないで、やっていくとして、何か、話の筋とか考えた? 私はまだ何にも考えてないけど……」
「はい、それは……」
三重野は言った。
乗り気なのは三重野だけ。雨宮のほうは……ゲイ仲間にでもフラれたのかじっとりとした顔をしている。神田は、何も考えていないのか電池が切れたよう。結局、これは三重野の発案にして三重野の作品。三重野がでしゃばりたいだけの作品。
「あ、その前にさ、三重野さん」
丸山花世は言った。
「これ……三重野さん、売るんだよね?」
「はい。売るの僕です」
「ふーん」
いったい何故そのような事を聞くのか。スタッフには分からないようであるが、それはそれでかまわないこと。丸山花世が確認できればそれでいいのだ。
「売るの僕……売るの僕。うん分かった」
丸山花世は迷いを断ち切っている。そして。
「で、どういう話にするの? っていうか、どういう話にしたいの? なんか絶望的で、人が死んでいくとか……記録より記憶とかそんなこと言ってたけど」
「はいはい、そうなんですね!」
三重野は嬉々として言った。死地に笑いながら飛び込んでいく人間は潔い。だが、そこが死地だと分からないままに喜んで飛び込む人間は愚かである。
「で、スタッフといろいろと考えまして……」
「うん……」
丸山花世は首をかしげている。会社の金を使って、自分の頭の中にある設定を人に押し付けて作品を書かせる。能力のある人間であれば立派な原案も出てくるだろうが、つたない能力ではそれもまず無理。
「原案はね、一応僕ということで……」
「ふーん」
原案三重野保。
クレジットに載る自分の名前。
随分とせせこましい野望ではないか。丸山花世は幼稚園児のようにを輝かせている中年男に冷徹な視線を送っている。あるいは……三重野に隠れた才能があるかもしれない。万に一つの可能性をしかし丸山花世は考慮していない。