むべやまかぜを 2
作品を作るのに必要なのは技術ではない。いつでもハートなのだ。淋しげなネオンを写す掘割と深く考え込む斉藤亜矢子。丸山花世は交互に見ながら、凶悪な作品の構想をすでに練り始めている――。
「と、いうことでですね、製作会議を始めたいとね、思うんですよ」
意気揚々としてヒゲデブは言った。
洋風居酒屋での虚しい歓迎会から数日後。丸山花世は再び有限会社グラップラーの会議室を訪れることになった。
集まっているのは三重野と神田。そしてゲイ雨宮。
「あれ? 高原さんは?」
ハゲが一人欠けていることに少女は首をかしげた。
「高原はね、実家のほうでちょっといろいろとありましてね、今日欠席です」
「何よ、実家のほうでいろいろって」
「お爺さんがね、危篤ということでしてね」
三重野は言い、丸山花世は渋い顔を作った。
「ぬるい会社だね。会社休むならジジイ死んでからでも遅くないんじゃないの?」
物書きヤクザは言いたい放題である。
「いや、そうは言いましても……」
ロボット神田がぼそぼそと言った、何か言いたいことがあるのかそれとも何も言いたいことはないのか煮え切らない態度のディレクターのことを花世は気にしない。
「でもさ、実際問題として、作品、いろいろと仕切れるのはあのおっさんだけなんじゃないの? 三重野さんは作品の良し悪し、何にもわかんないんでしょ? 雨宮さんはグラフィッカーで……で、神田さん、あんたが仕切れるわけ?」
「……」
若いディレクターは沈黙している。自信が無いのだろう。
「それからさ、気になってたんだけれど、イラスト、誰が担当すんの? サイトーさんは別ラインなんでしょ?」
「えーとですね、それは……」
三重野が口を開いた。突っ込まれると沈黙する神田。一方、三重野は痛いところを突かれると多弁でごまかす、そういう性質であるらしい。どちらにせよ、立派な人間ではない。
「これから決めようと思っていまして……今、いろいろなところに打診をしておりまして」
「泥縄だね」
丸山花世はあっさりと言った。
斉藤べれったに対する対抗心であるとか、クリエイターへの憧れ。嫉妬心。自分でもできるという自負心。そして焦り。だから見切り発車。けれど、焦って動いたものに優れたものはない。