むべやまかぜを 2
イラストレーターは疲れ果てたようにして言った。
「あ?」
「学校のお友達にもそういうことを……そういう話をするのかしら?」
「クラスの連中にはこういうことは言わないよ。言ったって、どうせ理解してもらえないと思うし。別に理解してもらう必要も感じないっしょ。っていうか、学校には友達いないからさ。一人も。でもいいんだよ」
物書きヤクザはあっさりと言い、斉藤亜矢子は毒気に当てられたのか頭を二、三度振った。
「話す価値のある奴には話す。サイトーさんはさ、話をするに値する人だと思うんだよね。だから、本気で向き合う。それに力があんのに守りに入ってる奴にはやっぱり蹴りのひとつも入れてやんなきゃいかんと思うしさ」
丸山花世は言い、そしてべれったはため息をついている。
「今時の女子高生って、しっかりしてるのねぇ……」
どうも斉藤亜矢子は性格的に自信を持てないそういうタイプであるのか。
「そうかね?」
斉藤亜矢子は何か深く考え込んでしまっているが花世はあまり気にしていない。言いたいことは言ってしまったし、相手は三十女。大人というものは自分のことは自分でなんとかするものだろう。
「ああ、それから……」
「ん、何?」
「私、サイトーさんの、イラスト、結構好きだよ。気に入ってる。たっつん……もう死んじゃったけど、龍川綾二もきっと私と同じ意見なはずだよ」
丸山花世は自分の言葉に『うん』とひとつ頷いた。斉藤亜矢子が物書きヤクザの言葉にどう思ったのか。言葉を投げかけた丸山花世にはよく分からない。
ただ――。
丸山花世はひとつだけ分かったことがあるのだ。それは、自分が三重野たちと作るだろう作品のスジ。作品が生まれてくるための理由。作品が作られる意味。
べれったという小さな控えめな太陽と、その小さな太陽にすら目がくらみ拗けているほかのスタッフたち。だからこその絶望。絶望的な作品。高みにたどり着けないオタクたちのルサンチマンの物語は同時に、迷っているイラストレーターを無理やりに空に追い立てる乱暴な作品でもあるのだ。
――こいつは相当やばい作品になるけど、まあ、仕方ないよね。