むべやまかぜを 2
「まあ、その話はあちらについてからということで……」
「……」
「ああ、Aポイント、お金だけは余ってるみたいですよ。ですから、支払いについては問題ないですから。それは請合います」
「金のことは、まあ、とうでもいいよ」
変なところで商人になる編集殿に花世はちょっと疲れたようなため息をついた。
有限会社グラップラーの事務所は万世橋のすぐそば、掘割脇に建つビルの一室にあった。
築三十の古いビルの5階。
もっさりとした動きのエレベーターを降りたその先が物書きヤクザたちの終着駅である。そして……。
「うーん」
少女はうなった。
エレベーターの向こうにあったのはエロゲーのポップにポスター。インターホンの脇には自社ソフトのキャラだろう。全裸の美少女のフィギュアがお出迎え。
「あのさー、せめて、服ぐらい着せてやりなよ。郵便とか宅急便の人とか、来るんでしょ? そういう人はまともな人なんだからさ」
花世は呆れたようにして言い、一方の岡島はインターホンを慣れた様子で受話器をとった。
「失礼します。四次元の岡島と申します。」
岡島はそのように言いながらインターホンの向こうにいる相手に頭を下げている。一方、丸山花世は知らん顔である。
「あ、はい、分かりました……」
岡島は部屋の中とのコンタクトを取り終え、インターホンが切られ、そして……すぐに奥から女性が1人出てきた。セミロングの髪が綺麗な小柄な美人。ピンク色のブラウスをつけた若い女性のことを花世は受付嬢だと思っている。あるいは社長秘書であるとか……。
「ああ、どうも、岡島さん」
女性はそのように愛想良く笑い、岡島は言った。
「どうも、その節はお世話になりました」
そして聞いている花世は変な顔をしている。
――受付嬢に『その節は』なんてけったいなことを言う男だよなー、オカジーも……。
否。丸山花世は勘違いをしているのだ。
「ええと、こちらは?」
小柄な美人はそのように言った。こちら……とは、丸山花世である。
「丸山っす」
少女は岡島の紹介を待たずに適当に言った。そこで岡島が困ったように言った。
「……あの、こちらが斉藤さん。べれったさんです」
「え?」
少女はきょとんとなっている。