むべやまかぜを 2
少女は自分のプロフィールについて誰かに語る意義を感じていないので、自分の話は適当に済ませて本題に入った。
「ああ、はい。Aポイント、ですね」
「なんなの、そのAポイントって?」
「Aポイントというのはですね、IT系の広告会社でして」
「ITで広告会社、ねえ」
丸山花世は胡散臭そうな顔を作った。IT。それは日本では虚業を指しているのだ。
「私、広告の仕事はできないよ。やったことないし」
「いや、そうじゃないんです」
岡島は言った。
「広告の仕事ではないんです。ええとですね。Aポイントの中にグラップラーっていう一他部門がありまして。ここで同人のゲームを作っているんですよ」
「グラップラー? 同人? なんで、広告会社が同人ゲーム作ってんのよ」
「うーん……それは……」
岡島は言葉に詰まった。
「そのあたりのことは、よく分からないんですよね。でも、そうなっている。で、グラップラーには、べれったさんっていう絵師の人がいまして」
「……そうか」
読めた。花世は頷いた。
「べれった。そっか。そういうことか」
龍川綾二の遺作。山田達と手を組んで作った作品のイラストがべれったという人物。要するにこれは、広義のバーター、なのだろう。
絵師を提供してもらったソフトハウスに、今度は編集がライター(丸山花世は作家であるが)を融通する。もちろん、ただで、ではないが。
「作家とイラスト物々交換ってわけか…」
「いや、まあ、そうなんですが。あちらにも丸山さんのことを話したら、ひとく乗り気で」
「どーせ、現役女子高生でエロ作家とか、わけの分からんこと言ったんじゃないの? ありがたメーワクなんだよ、そういうの」
「いや、まあ、そうなんですが……」
「だいたい、私、エロはもうやらんよ」
龍川綾二は真剣にエロに取り組んでいた。文字通り使い捨てられるキャラクター達のために命をかけていたのだ。そんな熱い男の魂に触れて、それでなおいい加減な気持でエロに向かうほど物書きヤクザは恥知らずではない。
「いや、ですから、エロではないんです。それは、確かです」
「同人でエロじゃない、だったらなんなの? そんなのあるの?」
同人はエロ。エロがない同人を誰が買うのか。