むべやまかぜを 2
「そういう作品はさ、サイトーさん、尊いんだよ。誰が何と言っても、どんなにおかしな、どんなに気が狂った作品でも、それはそいつの人生。だから本当に貴いんだ」
「……」
「そういう連中に比べれば、そういう連中が作った作品のことを思えば……やっぱりサイトーさんは本当の意味で自分の仕事を愛してないんだよ。絵を描くことを本当の意味では愛してない。サイトーさんが愛しているのは自分なんだよ」
丸山花世は直球を放り……デッドボールを急所にもらったイラストレーターは立ち尽くしている。
「三重野のデブとかもさ、本当に作品作りたいんだったら、作ってみればいいんだよ。一人で。何度失敗したっていいじゃんか。努力して、努力して、プロデューサーとかディレクターとか、そんなチンカスみたいな肩書き頼りにしないでさ。そりゃ、人に褒められるものなんかはできないかもしれないよ。でも、それでいいじゃん。不細工だってみっともなくたっていいんだよ。でも、そいつが、その作品こそがそれを作ったその野郎自身なんだ。その不細工な作品がそいつ自身。それでいいんだよ。何を恥じる必要がある? 何万部、何十万部売れるかは関係ない。自分がそいつに納得できるか、大事なのはそれだけだよ。それ以外のことはカンケーない。『注目されたい』ってことと『作品を作りたい』っていう気持ちは別なんだよ。それは一緒じゃない。注目されたいんだったらテレビの芸人でもなればいいんだ」
丸山花世は穏やかであるが、言葉はヘビー級ボクサーのボディブローのような破壊力がある。
「……花世ちゃん、あなたは……すごい子ねえ……」
社内イラストレーターは重カノン砲のような丸山花世の言葉の砲弾によって半死半生になっている。だが、そんなことは物書きヤクザは気にしない。
「うん。そうかもね。でも、やっぱり、サイトーさんは自分の足で立って自分の運命を見定める必要ってあると思うよ。それ、名前が売れた人間の責務だよ。否も応もないし是も非もない。やらなきゃならない使命」
口の悪い高校生にぼこぼこにされる。けれど、斉藤女子は怒っていない。マゾヒストの気があるからなのか、あるいは、心のどこかで誰かに背中を叩いて欲しいという気持があったからなのか。
「……ねえ、花世ちゃん、あなた、学校でもそうなの?」