むべやまかぜを 2
「社内クリエイターは金と会社が厚い壁になって、だから、外がどれほど熱いか、どれほど寒いか、そういうことすら分からなくなっちまう。で、そうやっているうちにどんどん時代からずれていっちまうんだ」 」
少女は淡々とした口調で続ける。
「結局さ、きちんと作品の神様と向き合ってないんだよ。みんな。だから何かあると簡単に折れっちまう」
「作品の神様……か」
「そーだよ。作品の神様はズルが嫌いなんだよ。まじめに作品に取り組まないヤローには天罰を下す。でも、まじめに真剣に向き合う奴には恩寵を与えるんだ。実力のあるなしじゃない。思いがどれだけ真剣か。大事なのはそれだけだよ。大事なのはどれだけ作品を愛しているか。どれだけ相手に伝えたいか、どれだけ真心があるかだ」
少女は斉藤亜矢子の顔を覗き込むようにしていった。三重野であるとか神田にはそういう話はしない。アホに話をしても無駄だし、実際に作品を作らない人間にはそれは理解できないこと。
「作品ってさ。パンチと一緒だよ。体重乗ってないとお客をぶっ飛ばすことなんか出来ないんだよ。相手の魂に響かない。会社に雇われている作り手ってさ、ゲイ雨宮とかもそうだし、サイトーさんもそうだけれどいつも安全圏にいて、会社に守られてるんだよ。お金の面でも、保障の面でも。でも、だからこそ、筆先に体重が乗らないんだよ」
「……」
「お客はいつでも裸で待ってる。けれど、作り手は戦車に乗ってる。それではフェアじゃない」
花世は若くして亡くなったたっつんのことを思っている。龍川であれば、きっと物書きヤクザの言葉に、
――まったくだ、丸山さん、その通りだ! その通りなんだよ!
と賛同してくれるに違いないのだ。山田や伊澤もそうだし、大井弘子もきっとそう。だから丸山花世は語り続けることが出来る
「エロ屋の人たちはほかに仕事を持ちながら、それでもエロを書いてる。ラノベの作者でも警備員やったり、マックでバイトしながら仕事している。だってそうしないと食ってけないから。でも、そんだけ苦労してでもやっぱり作品、作ってたいんだよ。だから苦労もこらえるし困窮も我慢できる。本当に愛しているから」
斉藤亜矢子は沈黙している。