むべやまかぜを 2
「どーせさ、グラップラーなくなっても、デブとハゲとホモとロボットが路頭に迷うぐらいでさ。連中がどうなろうと知ったこっちゃねーっつーの。っていうか、あんな連中、むしろ三、四年、路頭に迷ったほうがいいよ。ホームレスでもやって、世間の厳しさとテメーらの馬鹿さ加減思い知りやがれってんだ!」
「……」
「オタク業界なんてさ、パイも小さいどーでもいい業界じゃんか。それだったら農業とか林業とかやったほうがいいんじゃないの? そっちのほうがよっぽど世のため人のためだよ」
「過激……よねぇ、あなたは」
イラストレーターは感心しているようである。
「人のおこぼれを貰って、人の金使って、それで偉そうにしようなんてそれ自体が根性腐ってるっつーの!」
「……」
三重野たちの問題は三重野たちの問題。一方で、斉藤亜矢子にも問題はある。それは、三重野たちの問題のポジとなるもの。
「サイトーさんもさ。ぐちぐち悩んでないで自分でやってみりゃいいんだよ。会社がどうとか、社長がどうとか、そんなカンケーねーよ。奴らは奴らの人生があって、それは奴らで勝手に解決してくよ」
女子高生の言葉は暴言だが、言葉の響きがとても澄んでいる。
「サイトーさんは、結局、自分に言い訳してるんだよ」
斉藤亜矢子は沈黙している。丸山花世は怒っているわけではない。ただ、適当に思ったままを語るだけ。
「私、いろいろな人を見てきたよ。大抵は自分ひとりでやってる人。自分だけ。ピンで仕事をしている人たち」
伊澤もそうだし、山田もそう、亡くなった龍川もそう。みんな、世間の波風にもまれながらそれでも一人で戦っている。たった一人で。丸山花世のアネキ分もそう。実力のあるなしではない。みんなそうやって運命に向きあっている。丸山花世にはそのことが潔いと思われるのだ。だからこそ、三重野たちは瞳に醜く映る。
「社内のクリエイターは、そういう一人でやってる奴に比べると明らかにひ弱い。編プロとか事務所に所属して仲間内で仕事回してる奴とか。そういうのは、人としても作り手としても細い。だから会社が崩れるともちこたえられないんだ」
花世は続ける。