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むべやまかぜを 2

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 深刻な斉藤女子に比べて、丸山花世は外部の人間ということもあって平気な顔をしている。 
 「高原さんは風見鶏で頼りにならないしね。自分を引っ張ってくれた三重野さんに義理があるのかな。神田君は若すぎるし」
 誰にも話す相手がいない。斉藤女史も気の毒な人物である。
 「あのさー、サイトーさん、私、ロボット神田よりも年下なんすけど」
 花世は橋の欄干にもたれていった。
 「うん。そうなんだけれど、あなたはちょっと普通の人には見えないから」
 少女は変な顔をした。自分はまともではないのか。丸山花世には思い当たる節がないわけではない。
 「なんでかな。なんで、みんなそんなふうに変なことになっちゃうのかな」
 斉藤女史はつまらなそうに言った。
 「高校出て、専門学校行って。デザイン勉強して。Aポイントのほうにデザイナー候補としてアルバイトで入って。で、イラスト描いたりしているうちに、ゲームの部門がてきて、そっちを手伝って。そうしたら、作品が売れるようになって……」
 「……」
 「最初はアダルトの作品に戸惑うことばかりだったけれど、作品が売れるからやめることもできなくなって」
 「でも、こんな生活いつまでも続かないって私も知ってて。だって、そうでしょ? そんなにいつまでも続かないよ。若い人、どんどん出てくるし。私もうば桜。今年で三十歳……」
 「え? サイトーさん、そんなに年なの?」
 「……」
 じっとりとしたイラストレーターの視線に花世は珍しく言葉を詰まらせた。
 「花世ちゃん。あなたもあっという間に三十よ。ホントなんだから……」
 「そいつは……覚えとくよ……」
 丸山花世も面白くなさそうにして言った。年をとるのはそれだけあの世との距離が縮まること。それほど芳しいことではない。
 「このまま……このままでいいのかなって思うのね。時々。五十、六十まで続けられるか。五十六十までエロ原画。そんなの無理。実力がないのは、私もおんなじ。能力のない人間が底辺で足の引っ張り合い……みっともないよね」
 「ふーん」
 花世はうなった。
作品名:むべやまかぜを 2 作家名:黄支亮