むべやまかぜを 2
「うん。三重野のおっさんとか見てるとさ、やっぱりジグジグスパトニックっぽいんだよな。作品を作る力はない。ハートも弱いし、頭も弱い。でも自己顕示欲だけは強い。その自己顕示欲もストレートなもんじゃなくて、曲げてくる自己顕示欲っつーか」
「曲げてくる?」
「うん。なんかこすっからいんだよね。会社の金で宴席ぶってみたり。血の巡りの悪い男だよね」
「あなた、言いたい放題ねぇ」
「うん」
花世は自分が間違っているとは思っていないので怪訝な顔をしている。
「ああ、そうだ、あのさ、サイトーさん」
丸山花世はもののついでにいった。
「雨宮。雨宮っていんじゃんか。グラフィッカーの?」
「うん。いるけど」
「雨宮っていうグラフィッカー、あの野郎、ゲイじゃない?」
「……え?」
突然の言葉にイラストレーターは頭の中が真っ白になっているようである。
「は? 雨宮君が?」
「うん。あのいきがったチンピラ。あいつ、ホモだと思うんだよね。そうじゃなければバイセクシャル。ああいう、なんかマッチョで突っ張ってて、ことさらに自分を強く見せたがる奴、男らしさに必要以上にこだわる奴って隠れゲイの場合が多いから。新宿二丁目とかに隠れて入り浸ってるんじゃない?」
「いや、それはどうか……どうなのかしら?」
そこまでは知らない。斉藤女史は困惑している。そして花世は事実が確かめられなくてもどうということはない。少女の中では雨宮は同性愛者認定は済んでいる。そして、雨宮が同性愛者であるからといってどうということもない。作っているものがよければ国籍も性別も人種も性癖も関係ない。丸山花世の価値基準はいつでもぶれない。
「まあいいけどさ」
少女は適当に言葉を吐いて散らす。
「どっちにしたって、発展性のない連中なわけだし」
その発展性のない連中と机を並べている自分の立場はどうなるのだ。女性イラストレーターはそんなことは言わなかった。何故ならば、丸山花世の言葉はそのまま斉藤亜矢子の心のつぶやきでもあるのだから。
「作品作る能力がない、か……」
斉藤女史は小さな声で、だがはっきりと言った。
「三重野さんはもちろんそうだけれど、ほかの人たちも、一線ではやっていけない人たちで。私も、人のことは言えたガラではないけど……」
「……」