むべやまかぜを 2
「十五分の遅刻、か。なんだよ……オカジーもあれだよなあ」
秋葉原の中央改札口で物書きヤクザは立ち尽くしている。
――明日十六時。お会いしたいです。
デートの約束ならば即座に却下ということになるのだが、どうも、そうではない。
――また仕事の依頼でして……。
前日、丸山花世に電話を寄越した編集殿はそのようなことを言っていた。
「エロならやんないよ。もういいよ」
少女はそのように言ったのだが……。
やがて。ぼんやりしている丸山花世のそばに岡島が駆け寄ってくる。
「すみません……いろいろとあって」
「いろいろとあんのはいいけど、呼び出しといていきなり遅刻っておかしくねーか? 携帯で連絡入れようにも電波、届かないし……」
「すみません。打ち合わせが地下だったもので……」
すみませんで押し切る。謝るけれどそれだけ。編集殿もなかなかの豪腕である。一方、小娘も普段からあまり自分が素行がよろしくないので他人に時間のことで強くは言えない弱さがある。
「まあ、いいけど。で、オカジー今日はなんなのよ」
「えーとですね。ちょっとまたお手伝いを頼みたいのですよ」
「そりゃいいけど何を手伝うのよ。モノにもよるよ。こっちもできることとできないことがあんだから」
――実は、Aポイントという会社の仕事をやってもらいたいんです。
岡島は前日、花世にそのようなことを電話で話していた。物書きヤクザのほうは、電話でいろいろと話をされてもよく分からないので、続きは現場で、と、そのようなことになったのだ。
「それでは歩きながら話しましょうか」
岡島は言った。花世は黙って後を追う。
「今日は学校、だったんですか?」
編集殿は少女に尋ね、小娘はつまらなそうに言った。
「あー。うん」
「大学の受験とかそんな時期ですよね」
「いや。カンケーないよ」
「……」
「うち、エスカレーター式の学校だから」
「そうなんですか」
「あんま良い学部とかはいけないけど、まあ、どこか入れるんじゃないの?」
少女は退屈そうに言った。そんなものに何の価値があるのか。少なくとも作品を作るのに学歴はそれほどの手助けにはならないことを花世は実体験として知っている。
「で、なんだっけ、なんとかポイントがどうとかって」