むべやまかぜを 2
決然として言う少女に、社長君はつられて言った。
「もしかしたら、あのプロデューサーや、ディレクターでは、私についてこられないかもしれないっスよ」
少女の言葉の意味を社長は理解せず、アルバイトの女性はもちろん何も分からず、ただ斉藤女史だけが不思議なものを見るように丸山花世を眺めている。
「……ま、どうなるかわかんないけど」
丸山花世は曖昧に言った。
絶望。後味の悪いもの。それは花世の心の中には無い。それは三重野や高原たちの心の内にあるもの。だとすれば苦悩のツケを支払うのは丸山花世ではなく、スタッフたちということ。
その意味が分かっているのはただ一人丸山花世のみであるのだ。
人ばかり多くてあまり盛り上がらない会は九時前には終わってしまった。派手ではあるが内実が伴わない宴。花世も結局、ほかのライターやイラストと会話をすることはなかった。普通、こういう場面ではいろいろと同業者内で接触もあるものなのだが、そういうものは一切なし。誰も彼もが丸山花世の存在を無視し……そして、無視されたからといって物書きヤクザもどうということはなかった。
――まあ、えにしってそんなもんだよなー。
秋葉原の駅前ビル。入り口のところから、三々五々に散っていく社外スタッフを見ながら少女はそんなことを思っている。
「さて、私も帰るか……」
秋葉原から新橋まで十五分少々。で、あれば、アネキ分の店に寄っていく暇はあるか。だが。
「あ、ちょっと……」
少女はそこで呼び止められた。
丸山花世を呼び止めたのは、べれった。斉藤女史。
「ああ、なんだ。サイトーさんか……」
少女は言った。社長も去り、三重野たちはカラオケだかに行ってしまった。外注スタッフも帰途についた。残っているのは丸山花世と斉藤女史の二人きり。
「どしたん?」
「ん、いや、ちょっと、お話をしないかなって。そう思って……」
「スタッフのアホさ加減を愚痴りたい?」
花世はずばりと言い、イラストレーターは呆れている。
「あなたは本当に……本音しか言わないのねえ」
「うん。そう……そうだね」
丸山花世は言った。いつでも本音。建前も言わないし、お追従も言わない。本当のことを言う。でも、それは、嘘では相手に思いが伝わらないから。
「ああ、あのさ……」