むべやまかぜを 2
奥まった床の間。まるでテロの打ち合わせのような会話は続く。
「そうか。なんかねー。ガンダムがどうとか言われても、僕はよく分からなくて。新作……なんだっけ? やってるとか言われても、何がなんだか」
社長殿は呆れているらしい。
「僕が古いのかなあ」
「いや、それがまともだと思いますよ」
花世の向こうでは高原が、自分が昔、関わったアニメ作品についてウンチクを語っている。
――昔、オレが会ったあの監督は陰険な奴で……。
何が面白いのか某監督のネタであるとか、作品の解説。丸山花世は聞くとはなしに聞いている。
「なくても誰も困らんもの、ですよね。絶対に」
花世は勝手に一人で燃え上がっている高原に醒め切った視線を送っている。
「同人も利益出ているから、僕も口は出さないけれど」
社長殿は言った。どうもグラップラーの社長は気弱な青二才というわけではないようである。数字だけは読める。変なルサンチマンを抱えて業界にしがみついているオタク上がりよりはよほどましである。
「現場を知らない人間が口を挟んでも混乱するだけだしね。お金さえきちんと入ってくれば、こっちも文句は言わない。そういうふうにしてるんだよ」
「そっちのほうが賢明かもしれんですね」
花世は言った。
「クリエイター上がりの社長って、たいてい、数字が読めないから。クオリティーがどうとか言っても、利益が吹っ飛んでちゃあねえ……」
小娘は作り手ではあるけれど、案外、コストに対してはシビアである。作りたいものを作りたいようにどうぞ。けれど、自分の身の丈にあったものでないと作りきらん。少女はそのことを知っているのだ。
「四十近くになってアニメに夢中ってねえ……あんた。親、泣きますよ」
丸山の言葉に、社長も斉藤女史も、コンパニオンだと思っていたアルバイトも苦笑いをしている。
「まあ、新作、お願いしますよ。僕は、ただ祈ることしかできませんが」
社長は言った。
「なんか絶望的で、衝撃的な作品を作るとかなんとか。連中、そんなことを言ってたから」
新作の内容については社長の耳にも届いている。小さな会社であれば当たり前か。そこで丸山花世は言った。
「できる限りのことはするし、手抜きはしない。それは約束する。でも……」
「でも?」