むべやまかぜを 2
若い社長は笑っている。年齢は三十半ば……三重野と同じぐらい、あるいは、それよりも若いのか。覇気の無い笑顔に物書きヤクザは内心渋い顔をしている。
――屑がのさばるのはトップがだらしないからか……。
この会社、もつんだろうか。花世はそんなことも思っている。だが、それはそれ……。
「ええと、まだお若いんですね。高校生?」
「ああ、はい。そうです」
丸山花世は動じないで言った。
「高校生なのに、もう一人でやって行ける。たいしたもんですね」
社長は人の良い笑顔を作り、花世は言った。
「そうじゃないです。高校で、親のすねをかじっているから、こういうことができるんです。一人でやっていける作家はほとんど稀ですよ」
「しっかりしたお嬢さんだ」
社長は楽しげであった。
「今日は、この子、この子の歓迎会をしようとそういうことだったんだけど」
若いIT系広告会社の社長殿はそういって、脇に控えている女性を指し示した。どうもそやつはコンパニオンではなかったらしい……。
「なんか、いつの間にか大事になってしまって」
向こうでは高原が太古のアニメについて講釈を垂れている。
「……会費制ではないですよね?」
花世はぼそりと言った。
「ああ、うん。それは、うちで経費で出すから……」
社長殿は丸山花世の発言の真意をどうも理解しなかったようである。物書きヤクザは自分の懐の心配なんかはしない。そうではなくて、会社のことを心配しているのだ。それは無駄金ではないか。三重野の権威付けのための大パーティー。そんなものに意味があるのか――だが、社長はそのことについては気がつかず、かわりに斉藤女史がじっと物書きヤクザの横顔を見ている。
「僕、実はオタクのことはよく分からなくて」
社長は小声で言った。
「同人とか言われても、ねえ。何が良いのかさっぱりで。エロ同人とか……それだったら風俗行けばいいと思うんだよね。まあ、僕は嫁さんも子供もいるから、風俗なんか行かないけど。オタクと呼ばれる人の考えていることはよく分からないよ。丸山さん、君、分かる?」
「分かるオタクもいますけど、分からんオタクもいます。オタクにもまっとうな人生送れる奴から、どうにもならないろくでなしまでいろいろといますから」