むべやまかぜを 2
ヒゲのプロデューサー三重野保。何の能力もないのに年齢が上だからという理由でチームを引っ張る……というか引っ張りきれていない愚か者。
「女子高生にはいろいろあんのよ。あんたと違って」
花世はつっけんどんに言い、その言い方に、斉藤女史は目を丸くしている。
「で、なんなのよ、この乱痴気騒ぎは」
丸山花世は言った。
洋風居酒屋の中はひどく騒々しい。
「いやー、いろいろな人をね、呼んだんですよね! ライターさんやイラストさん。音声さん。声優の人も一部ですね。みなさん骨休めしてもらおうとね、思いましてね!」
「……」
斉藤女史は下を向いている。
「社員だけでアルバイトの歓迎会ってそういうことじゃなかったの?」
「まあ最初はそうだったんですがね、どうせやるならばね、派手にね、どーんとやったほうがいいと思いまして!」
アホプロデューサーは得意げになっている。
「誰が思ったのよ?」
「僕ですね!」
「僕って……金払うのあんたじゃないんでしょう?」
「それは当然会社の経費ですよね」
無邪気に笑う中年男を丸山花世はじっと見つめている。
――こいつ、ガンだな。
人の金で遊んで、まるで自分が王様気取り。けれど。
「……」
三重野は派手に騒いでいる割にはどこかぼんやりしている。ヒゲデブのまわりには……そこはかとない違和感のようなものが漂っているのだ。花世が黙っているからではない。中年男は、自分が招こうと言い出した関係各位の様子をちらちらと眺めている。
ライター、イラスト、はたまた音声といった人々。誰一人して三重野に擦り寄ってくるものはいない。一人ぐらい、
――プロデューサー殿、まあまあ……。
と近づいてきてもいいはずなのに、誰も寄ってこないのだ。集団の中の絶対孤独である。社員もその他スタッフも勝手に話をしているばかり。そのような光景は多分だが、アホプロデューサーが思い描いていた光景とは違うもの。もっと奉られるはず。もっと、おだてられるはず。オレが中心。オレが主役。なぜならばオレはプロデューサーだから。もっとも金は一銭もいれてないが。そして現実は違う。
――みんな分かってるよなー。こいつが使えねーって。
花世は醒めた目で傷心の中年男を見ている。そして。